二ノ沢右稜(仮称)〜剣吊り〜餓鬼岳〜餓鬼岳西稜A尾根(仮称)
2013年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバー久留島、植田(記録 久留島)
日程:2014年3月14〜17日

計画
 昨年、冬期餓鬼岳最短ルート(西面)を切り開いた。今年は、隣に1本ルートを足し、あわよくばそのまま唐沢岳まで縦走する計画である。夏に尾根の下部と上部、そして唐沢岳の偵察を計画したが、天候不良で唐沢岳は行けなかった。秋にもう1度アプローチの沢と唐沢岳の偵察に行く予定だったが、個人的事情で行けなかった。

地名について
 探した限りこの尾根(二ノ沢の右の尾根)には記録がないので、「二ノ沢右稜」と仮称しておく。また、山と高原地図では2644mピークを「剣ズリ」としているが登山体系では周辺の岩峰群一帯が「剣吊り」とあり、その方が山の形に相応しい名前だと思うのでここでは登山体系に従い岩峰群一帯を「剣吊り」、2644mピークは「剣ズリ最高点」と呼ぶことにする。また下降の尾根は、昨年つけた名前をそのまま利用しておく。


(餓鬼岳西稜から見た剣吊り)
(左から2600m、2620m、2644mの各ピーク)

ルート図


山行前
 山行前、不安に感じていたのは以下の点だ。
@ アプローチの渡渉で靴を濡らさずに行けるか?
A アプローチの雪崩
B 熊
C 偵察時、二段岩壁上段に設置した縄梯子は切れていないか?
D 2644mピーク手前の浮石
E 唐沢岳下降路での道迷い

※実際には、@雪が多かったため沢はデブリで埋まっていて渡渉はなく、A雪は安定し、Bカモシカにしか遭遇せず、C縄梯子はあり、D浮石は雪で埋まり、E唐沢岳には行けなかった。

山行概要

3月14日(金)
新宿7:30発のあずさ3号で信濃大町11:01着。前日から来ていた植田君と合流。タクシーで葛温泉高瀬館へ。七倉手前のトンネルは、ヘッデン必要。(あとのトンネルは不要。)最後のトンネルが終わった所からワカン装着。膝下ラッセル。去年は雪のない地面の上にテントを張ったが、今年はむき出しの地面などない。去年よりも雪はとても多い。デブリが出ているのは東沢出合までに3箇所、あと一ノ沢出合手前でかなり大きいのが3箇所。林道終点にテントを張る。堰堤の先で、沢の水を汲めるので水作り不要。

3月15日(土)
 最初左岸、行き詰った所に去年より安定したスノーブリッジがあり、簡単に右岸へ。地形図で両岸崖マークがある辺りは、沢全体が雪に覆われていてこの辺りでもう1度左岸へ。広くなった左岸台地を悠々と歩くがこれが間違え。本当はここが二ノ沢出合。だいぶ先まで行ってしまい、1時間以上ロスする。
 なぜ、間違えたか?その原因は
@ 夏の偵察時、二ノ沢出合は顕著な滝(F1、30m)があり、間違えようがなくノーマークだったため、一度も地図を見なかった(滝だけを目印に歩いていた)。
A 夏は水の中歩いたが、今回は水を避け左岸高台の歩きやすい所を行き、そこからは滝が見えなかった。
B 雪が多く、夏とはぜんぜん違う風景になっていた。


(二ノ沢出合F1)              (二ノ沢出合)

出合で水を汲み、ワカンをアイゼンに履き替える。右手の尾根へ上がるが急できつい。尾根に上がって最初の一歩は足場がなく、偵察時につけたお助け紐を雪から掘り出して強引に腕力で上がる。傾斜がやや緩んだ所でアイゼンワカンに変更する。数mだが、藪が濃い。1550m付近で、偵察時につけた赤布をおって右のルンゼへ。尾根上は岩が多いので、ひたすら右に回り込んでいく。
 1785mで尾根上に戻る。眼下に高瀬ダムが見える。いくつか小さな岩を越え、二段岩壁上段(3m)へ。ここは足場がないため縄梯子を作っておいたが、ワカンでくることを想定していなかったため、足が入らない。ここだけのためにワカンを外すのも面倒なので、空身になって梯子を手だけの腕力頼りに登り荷物は後から引き上げた。少し進むと平らになり、テントを張る。広いし、眺めもよく、快適だ。

3月16日(日)
 尾根中間部は偵察なしだが、問題となる所はない。2250m付近のちょっとした急登で展望が開ける。2400mには広いスペース、2440mではハングした岩の下でテントが張れる。ここがこの尾根最後のテント適地。2450m、巨大岩壁の下で登山道を横切る。登山道といっても赤ペンキを1つ見つけただけで道は雪に埋もれていてわからず、左右とも雪崩危険地帯に繋がっているのを夏に確認済みである。夏道は無視して、岩壁左の樹林帯から岩壁に沿って直上する。


(第1岩峰手前)

剣吊りの岩峰群がいよいよ見えてきた。第1岩峰でハーネスを装着する。
 第3岩峰の登りは夏に空身でもそれなりにスリリングだったので、冬はロープ使用かと思っていたが、右の雪壁がちょうどいい硬さの雪でロープを出さずに難なく越えることが出来た。

   
(第3岩峰)               (左の写真の岩峰下の雪壁)

ここから上部の岩稜帯も岩がややもろいため不安に感じていたが、雪が安定していたので左から岩に沿ってまとめて巻くことができた。


(上部岩稜)

 2644m、剣吊り最高点。凄まじい強風で休むことは出来ない。雪も舞い始めた。左下には、夏道を示す道標があるが、夏の偵察通り稜線上を行く。途中1箇所ある岩場は、アイゼンワカンでは降りられず、7mほど懸垂した。支点はハイマツ。



2600mピークまでは夏道。空中に設置されている桟橋は、この時期でも使えた。これが使えないと、おそらくもう1回ロープを出すことになる。まともには歩けない強風となり、気をつけていないと体が雪庇の方へ飛ばされる。2人とも何度か体を持っていかれるが、耐風姿勢をとりながらじわじわと進む。この先の岩峰は例えこちら側が登れても、向こうへは降りられない(何度か懸垂すれば可能かも知れないが、かなり大変)。



夏道は大きく二ノ沢側に下降するはずだが、どこが夏道かさっぱりわからない。深い雪の下の石楠花に何度も足をつかまれ、数m降りるのにも苦労する。最初の岩を回り込むと目の前にいかにも雪崩れそうな斜面が現れ、そこをトラバースするわけにも行かず岩の際に沿って、空身ラッセルで登り返す。ちなみに夏道は更に下の樹林帯にあると思われたが、ラッセルがひどく、使えなかった。
 屋根だけ顔をだす餓鬼岳小屋を発見。強風ど真ん中でとてもテントは張れないので、東斜面に回り込むと餓鬼岳小屋の倉庫のような建物があり、その脇が平らなスペースとなっていたので、ここにテント場を決定。屋根からの落雪で埋まらないために雪下ろしをし、建物側以外の3方にテントの高さ分のブロックを積んだが、風の方角は一定でなく、四方八方から風が吹きつけ、立てる時にはまだテントを飛ばされそうだった。テント設営に2時間。雪洞を掘るのと同じ時間がかかった。
 この日の行動と明後日の悪天予報とで、唐沢岳への縦走は中止、餓鬼岳西稜からの下山決めた。

3月17日(月)
 満月が裏銀座の稜線に沈み、太陽が浅間山から昇り、表銀座が朱色に染まる。そんな最高のショーを小屋前でたっぷり30分見物した後、テントで温まり直して、ゆっくり出発。

    

餓鬼岳山頂からの展望は、剣、立山、鹿島、槍、穂高、南ア、中ア、北信、富士、浅間など360°。一昨年登った北葛と七倉の各尾根は大きく見え、来年以降目標ルートもじっくり観察できる。今日は下山のみ。天気もよく、昨日とは大違いだ。


(唐沢岳分岐付近よりここまでのルート全景)
(ザックの真上が2644mの剣吊り最高点。そこから右に降りる尾根が二ノ沢右稜)

 去年アイゼンで快適に歩いた餓鬼岳西稜も今年は雪が多く、ずっとアイゼンワカン。雪の下の石楠花に足を突っ込むと抜けなくなり、一度ザックを下ろして手も使って抜く。槍を中心とする大展望は2200mまで続く。これだけ展望のあるすっきりとした尾根が今まで人に知られていないのは奇跡的だ。


(餓鬼岳西稜2450m付近)

 2217m、尾根が3方向にわかれる。去年、ここをA尾根分岐と勘違いした地点。去年つけた赤布が残っていた。ここは1番尾根らしい中央の道を行けばよい(左右の尾根に入るとすぐに急斜面になるので間違いに気づく)。本当のA尾根入口は15m下、2200m地点だ。2217mで進行方向を一度左に20°ずらし、2200mで今度は右に20°戻すイメージだ。ここで右に戻さず真っ直ぐ進めばB、C尾根に入れる(入口がやや急)。
 A尾根に入りしばらくは傾斜の緩い広い斜面が続く。何本か一ノ沢側に支尾根をわける。分岐は基本左だ。2025m〜1990mはやや尾根が狭く、ここでワカンをはずす。尾根上藪のある所は左右にうまく逃げながら降りられる。1900m〜1800mは一時的に藪が濃い。まともに行くときついが、あまり逃げようとすると尾根の本筋をはずしてしまうのでその兼ね合いが難しい。1810m、顕著な支尾根が一ノ沢に降りるが沢に降るにはまだ早い。本筋を行く。1750m、左下に一ノ沢出合を見ながら下降。
 1720m、尾根が複雑に分かれだす。小さい尾根を右に分けた直後、1:1で尾根が左右に分かれる所で初めて右に進む(2025mからここまで、とにかく真西に一直線に進み、ここではじめて真っ直ぐ行く尾根がなくなる。ここを右だ。A尾根に赤布は1つもつけていない)。
 1680m、左下に水流が見える。ここから尾根をはずれ、沢に下降する。去年は岩が数箇所でていて大部分後ろ向きでの下降だったが、今年は雪が多く、ほとんど前を向いて降りられた。降りた河原は1630m、F2上。去年は対岸の中間尾根を懸垂で降りたが、今年はその尾根の裏手のルンゼをノーロープで下降した。


(F2の下降。このルンゼを降りた)

ここもロープを使うかどうかは雪質とメンバーの力量による。F1もそのまま簡単にクライムダウンし、屈曲点。一ノ沢出合で行きのトレースに合流し、高瀬ダムで日没。20時ちょうどに葛温泉に下山した。

タイム
3月14日
11:45葛温泉発 12:15七倉 13:15高瀬ダム下 14:00高瀬ダム上  15:00東沢出合 16:00一ノ沢出合

3月15日
5:30出発(途中道間違え) 8:10二ノ沢出合(尾根取付) 10:00 1580m 11:20 1750m 12:00 1810m 13:00 二段岩壁 14:00 1970m

3月16日
5:30出発 6:30 2150m 9:00 2400m岩小屋 11:00第1岩峰  11:30剣ズリ最高点 12:00懸垂下降点 13:00 14:30餓鬼岳小屋

3月17日
7:20出発 8:30西稜に入る(唐沢岳分岐) 9:15 2464m大岩  11:10 2200mA・B・C分岐 12:00 2025m 14:00一ノ沢F2上 14:50一ノ沢屈曲点 15:45一ノ沢出合 20:00葛温泉