八ヶ岳定着ベース式登攀 「世紀末・世紀初は登りまくり」山行
2000年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
2000年12月30日〜2001年1月7日
三苫育(記)、安西耕治

12月30日 晴れ
(美濃戸口〜赤岳鉱泉〜ジョウゴ沢F1)
美濃戸口もクリスマス前に比べるとずいぶん雪がふえている。が、豚のように 重いザックのおかげで汗だくである。下手に立ち止まると二度と立ち上がれそ うに無かったので、一気に鉱泉まで駆け上がった。テン場は満員御礼、トイレの 真横のアナ場がこれから一週間以上滞在することになる我が家となった。クラ イマーとしての義務感(?)からふらふらしながらもジョウゴ沢に向かったがす ぐに力尽きて帰宅。レトルトカレーを食って早々に就寝。

12月31日 おおむね晴れ。
(裏同心ルンゼ〜小同心クラック〜赤岳)
四時半起床、もちラーメンを食って六時発。みなさんなんて朝寝坊なのでしょ う。僕らが一番出発かも。裏同心ルンゼのF1についたあたりでちょうど明るく なる。アイゼン、ハーネスをはいてレッツ、ピオレットラクション。安西さん は、おニューのバイルでがしがし先に行ってしまう。核心の三段30mもバック ロープだけ引いてフリーソロしていってしまった。僕はさびしく残されたザイ ルを結んでセカンドで登る。その後の滝も難なく越え、10時前にはだい同心基 部に着いてしまった。トラバースして小同心クラックへ。先行パーティーがい たのでしばらく待ってから取り付く。しかし、できるだけのんびり登ったつも りだったが、予想以上に簡単ですぐに追いついてしまい、先行のビレイヤーの下 で道があくのを待つ。こちらはお気楽だが、彼はひいひいとあせっていて、なん だか見ていて可哀想になってきた。先行のリーダーの落とす落石がけっこう怖 い。2ピッチ目は安西さんがリード、かなり傾斜はあるがホールドスタンスは いたるところにあるので問題は無い。ただしピンはあまりないので落っこち ちゃうとヤバイかも知れない。勇んで3ピッチ目に挑んだが、登攀的要素はまっ たくなかった。ザイルは引き上げてしまい、安西さんはノーロープで上がって きた。まだ時間はお昼前だったので、赤岳をまわって帰ることにする。安西さ んの言うところのジューサー(一般登山者)がしっかりアイゼン、ピッケルを握 り締めて歩く中をまるで緊張感なくダラダラと歩く。我ながら基本がなってい ない。赤岳頂上からは文三郎道を快適なグリセードで下降。ベースに帰ってか らもまだ日は高かった。そういえば今夜は大晦日であった。

1月1日 早朝は雪、10時過ぎより晴れ、風強し
(裏同心ルンゼ〜大同心南稜〜硫黄岳)
朝、起きたら世紀が変わっていた。いよいよ宇宙の旅の時代であるが、我々は 相変わらず壁に張り付きに行くだけである。6時出発。だい同心稜を詰めるのも つまらないので、また裏同心ルンゼに行く。最初から最後までロープを出さな かったので一時間弱で基部にたどり着いてしまう。しかし、雲は薄いが、雪は降 りしきり、風はかなり強い。凍傷覚悟で雲稜ルートに取り付くか.....?などと 迷ったが、ヒヨって南稜に取り付くことにした。結局、この選択は正解であった。 昨晩の雪で真っ白になった岸壁の登攀は、IIIとはいえかなり厳しいものであっ た。埋まったホールドを掘り返しているうちに指は凍りつき、まつげが凍って、 視界はぼやける。おまけにピンなんてありゃしない。「これが冬壁かーっ!!」 と実感しながらロープを伸ばす。1ピッチ目はビレイ点の直下が悪かった。しか しあんまり長い間迷っていたら冷凍食品になってしまいそうだったので、大胆 なムーブで一気に越える。残置のシュリンゲをつかんだ時は心底ほっとした。 リードを交代、吹雪をもろに喰らいながらのビレイはリード以上につらかった。 手袋がコチンコチンに凍り付いてしまって指が動かせなかった。2ピッチ目を フォローし終わるころには青空が広がり始め、テンションもあがってくる。風は、 相変わらず強く、寒さ自体はそんなに変わらなかったが、青空が見えただけであ んなに元気になれるとは思わなかった。ドームは、僕は以前にやっていたので安 西さんにゆずる。すっかり晴れ渡った空に浮かんだ真っ白な城砦、そのスカイ ラインを登っていく様はとても格好良い。昼前には大同心の頭着、今日は硫黄岳 まわりで帰ることにした。途中に立ち寄った山小屋の温度計はマイナス20度を 指していた。とても充実した登攀初めだった。我々が大同心の今世紀初登攀者だ ろう。

1月2日 終日荒れもよう
(ジョウゴ沢本谷、裏同心ルンゼ)
昨日の登攀でとても疲れていたし、僕が軽い凍傷になっていたので今日はレクリ エーション的にいこうということで意見が一致。ジョウゴ沢に向かう。天気は 悪い。ジョウゴ沢の滝はあまりにたくさんの人が登りすぎていて、ほとんど階段 状である。ロープを使うことなく本谷をつめ、大滝までいく。大滝は下部5mくら いがバーチカルだったが、ここもたくさん登られているらしく、バイルもアイゼ ンもさくさくと決まる。滝の上に出るとものすごい風で、一瞬にしてまつげが凍 りついた。懸垂しようとしてロープを放り投げたが風に戻されて僕よりも上まで 吹っ飛んでいってしまった。安西さんはロープの末端にバイルをつけて放り投 げていた。ナルホド。大滝の隣の、ナイアガラの滝で僕はバーチカルアイス初リ ードを体験した。スクリューをねじ込むのにフィフィを使ったが、これだとムー ブが中断してしまってあまり面白くなかった。練習してバイルにぶら下がったま ま打てるようになろう。これだけ登って同ルートを下降した。途中から分かれる 右股の方には面白そうな滝があったが、なんだか疲れていたので今度にすること にした。このあと、僕はF1でアイスボルダリング、安西さんは一人で裏同心ルン ゼに行った。

1月3日 曇り
(阿弥陀岳北稜)
五日目ともなるとモチベーションも下がってくる。おまけに天候は回復せず、最 大の目標である雲稜ルートにはとりつけない。そういうわけで第二の目標、阿弥 陀岳北西稜へと向かうことにする。行者小屋から南沢をしばらく下り、適当なとこ ろで尾根に入るが、なんせ視界がきかないので、どこからとりついていいのか さっぱりわからない。昨日から積もった雪でところにより腰ぐらいまでのラッセ ル。おまけにひどい藪こぎで、時にはホフク前進することすらあった。藪こぎが 終わり、やっとナイフエッジっぽくなってきたなと思い登攀具を身に付ける。気 持ちが引き締まっていい気分だ、どんな困難な岸壁が待っているのか?おお、お あつらえ向きに雲が晴れたぞ!あそこに見えるのは行者小屋だ!アレ?なんか変 だぞ。あんな位置に行者小屋が見えるわけが...なんてこった!!ここは北稜じゃ ねえか!!小さな岩場をノーロープで越えると、もうそこには頂上の看板が... ちゃんちゃん

 追記:視界が悪く、変な方向に降りてしまい困った。なぜか岩には青いペンキで 印が書いてあり、それにだまされた。北稜よりも一般道の下降の方がよっぽど怖 かった。

つづく。(物語は続くが、タイピングがまだ終わっていない)