谷川岳一ノ倉沢中央稜
1999年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
2000年3月18日〜20日
メンバー 久留島、牛山

この前前週、前週と敗退を繰り返していた久留島君と私は、今回の山行でこれ までの失敗を取り戻すべく、かなりの気合いとともに中央稜に向かった。今回 は、また今シーズン初めての大きな冬壁でもあった。しかし、メンバーの実力 からも、成功率は高いと思われ、いやでも気合いが入らずにはいられない。17 日夜高崎駅泊の後、18日土合駅から一ノ倉沢に入る。18日は、ほぼ快晴の中テー ルリッジの下見を行い、満足して一ノ倉沢出会いの小屋に入る。ここには、先 客として三スラを目指す2人パーティーがいた。

19日、予定通り1時半起床、3時出発。まだ真っ暗な4時半に中央稜基部に着く。 このルートは、1ピッチ目と4ピッチ目にIV級が出てくるが、あとはたいしたこ とはない。協議の結果私からトップで登り始めた。5時15分。1ピッチ目は、登 り出す前にとある女性の名前をとなえて気合いを入れたせいか、かなり調子よ く登れて気を良くした。IV級と思われた場所では、アイゼンでは私にとってか なり手ごわかったが、何とかフリーで越える。久留島君によると、ちょっと左 にハーケンが連打してあったそうだ。

2ピッチ目は、久留島君がフリーで抜け、3ピッチ目は人工で私が越える。この 頃までは、わりとスムーズに進み、二人とも気を良くしていた。しかし、難し くなってくるとカラビナなどのギヤが足りなくなり、ピッチを短く切らなくて はならなかった。(もっと持ってくれば良かった.....)

さて問題の4ピッチ目。上から下りてきた2人パーティーをやり過ごしてから、 10時頃久留島君が人工で登り始める。斜度はそれほどないが、すぐ上のチムニー を取り巻くハングした岩から、雪解け水がビタビタ落ちてくる。そのうち気温 が上がるとともにジャージャー落ちてくる。彼は雨の中を登っているみたいだ と言い、私はそれを聞いてテンションが下がってくる。そして、彼がビレイ点 から5mくらい上がったハーケンのところで、その上のピンが無くて攻めあぐね ていたとき、突然久留島君の体は私と同じ高度にあったのでした。なんと最後 のハーケンが抜けたのだった。幸い脚をぶつけた程度で、とりあえず安心。彼 は気を取り直して、ふたたび登り始める。しかし、落ちたショックは隠せない 様子。とりあえず、抜けたハーケンをうち直そうとするが、どうやら抜けた場 所しか打つ場所がないようで、とても難儀していた。なんとか、打ち直すが彼 はそのハーケンが信じられないようで、なかなかそれ以上登れない。私もそん なところは登りたくないので、彼を励ましつつ、彼が登ってくれるのを心の中 で祈る。しかし、彼はついにあきらめて下りてきてしまった。12時。

ううむ、私が行くのか。仕方がない。彼が落ちたところで、私もかなりちゅう ちょした。しかし、結局行くことにした。まあ、落ちても死ぬわけではないし。 きっと、ここで引き返したら絶対後悔するに決まっている。以前登れるかどう かわからないところで引き返してしまって、未だに後悔している経験もあるし。 というわけで、さらに進むことにした。実際にその上の難しい部分は15mくら いだった。それ以上はハーケンがなくて人工では行けないので、一手、二手と 岩角をつかみつつ進んでいくと、だんだん状況は悪くなってた。上からは、ど んどん水が滴って体は濡れるし、岩場も濡れている。そして、目指していたホー ルドをつかんでも、予想よりもバランスが悪く、その場にとどまっている限り 腕が疲れて落ちるのを待つばかりというていたらくになってしまった。私の脚 はふるえが止らなくなった。久留島君によれば、絶対落ちると思っていたそう だ。あまり迷っている余裕もなく、そこで落ちるか登るか二つに一つという状 況になって、結局登ることにした。そこからの5mは恐怖のために体が濡れるこ とさえまるで気にならなかった。しかし、じりじりとチムニーを登り、しっか りしたハーケンで一休みすることができた。最大の難関は抜けたと思われた。 しかし、最後の抜け口の一手では、またもや詰まってしまった。一番上の新し いハーケンは、私が乗ったらすぐに抜けてしまった。それを力の限り打ち込ん であぶみをかける。その上の最後の一手は、右手ピッケル、左手は岩角をつか んで抜けつつ、幸運にもハーケンを見つけてランニングを取る。その後3mくら いの雪壁を登り、ビレイ点をつかんだ瞬間、私は実に幸せだった。14時。

このあと、久留島君がフォローするのに1時間半かかり、15時を過ぎてしまっ たので、そこから下降する。懸垂2ピッチで、基部に着く。テールリッジを下 り、小屋に着いたのは、6時頃だった。三苫君の出迎えを受ける。2人で彼にたっ ぷりと自慢話を聞かせつつ、夜は更けていった。

下から見上げる中央稜

2ピッチ目(たぶん)を登る久留島

4ピッチ目を登る牛山