剱岳
2019年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバーDS(記録)、NN
期間:2019年8月7日〜11日

山行概要:
8/7、室堂〜熊の岩BC
8/8、BC〜チンネ左稜線〜BC
8/9、BC〜Cフェース剣稜会ルート〜八ツ峰主稜上半〜剱岳〜BC
8/10、BC〜Dフェース富山大ルート〜Aフェース中大ルート〜BC
8/11、BC〜室堂

8/6
23:00、茹だるような暑さの中、新宿駅都庁前駐車場発の毎日あるぺん号の夜行バスで室堂直行便に乗車。夜行バスは久しぶりだったが予想以上によく眠れた。電車等を使ってのアルペンルート経由よりトータル交通費は若干かかるが利便性が最も高い手段を利用。

8/7(晴れ後一時雨)
7:00-7:30、室堂。
お盆前の早朝で閑散としている。荷分けをして剣沢経由で熊の岩を目指す。
10:00、剱御前小屋。
剱沢の途中から夏道が切れたためアイゼンを装着し雪渓を下る。(DSは6本爪の軽アイゼン、NNは10本爪アイゼン。この装備の違いが今山行の個人的な最大の反省となった。。)
11:55、平蔵谷出合。
源次郎尾根への取り付きの踏み跡がよく見える。
12:10、長次郎谷出合。
八ツ峰主稜に積雪期取り付くであろう箇所を探しながら雪渓を登り返す。
13:30、長次郎谷の雪渓を登る途中、雷を伴う夕立に1h程打たれ一気にガスに巻かれた。事前予報ではこの日が1番好天予報だっただけにもう夕立?と明日以降の夕立の時間が気掛かりとなるが、剱の洗礼と受け入れ黙々と登った。途中10人近い学生パーティとすれ違ったが雪渓下りで難儀している様子であった。
14:30、熊の岩BC。
水は長次郎谷左俣側にしっかり流れている。携帯の電波は入らない。テン場も意外と広く10-15張くらいは張れる。15:30頃には再び青空に戻ったので濡れた物を乾かしつつ夕食のカツ煮を美味しく頂き、翌日のチンネ左稜線への英気を養う。後立山連峰に虹が架かっていてとても綺麗だ。
夕方、急にヘリがテン場脇の上空でホバリングし始め1人降りてきて長次郎谷を下り始めた。あれはなんだったのだろう。
20:00、就寝。

熊の岩BCからY峰フェース

初日夕食カツ煮

8/8(晴れ)
3:00、起床。
4:30、熊の岩BC発。
長次郎谷右俣から池ノ谷乗越を目指す。上部に行く程傾斜がキツくなりDSの軽アイゼンでは若干足元が不安である。今は雪も固く登りはなんとかなるが緩んできた頃の下りを考えると非常に怖い。壁際をよく観察して下りるラインを考えながら登る。雪渓は稜線まで割れることなく繋がっていた。
5:15-5:30、池ノ谷乗越。
アイゼンを外し向かい側の池ノ谷ガリーを下る。相変わらずガラガラの斜面で落石に神経を使う。池ノ谷ガリーの右岸のかなり高い位置にピンクテープの付いたぺツルボルトが道沿いに打ってあった。
6:20-6:30、三ノ窓。
入会2年目の夏合宿で1週間近く剱に入った際は三ノ窓雪渓から登ってきたが天候に恵まれず停滞含め4泊もした。雨の中チンネに取り付いてみたが登れるはずもなく敗退。しかし今回は無風快晴でベストコンディションだ。DSは令和になってから雨続きなのでNNがきっと天気の子なのだろう。NNにとってもチンネ左稜線は長年の課題だったとのことでお互い自然と気持ちが上がる。
7:30、チンネ左稜線取り付き。
三ノ窓でアイゼンを再び履き取り付きへ雪渓をトラバース。以前来た筈なのに取り付き箇所を失念したためチンネ基部を右往左往し取り付きを探した。取り付き箇所を熟知していれば本来三ノ窓から15分くらいで取り付けるだろう。
チンネ左稜線は全13P、基本奇数PをDS、偶然PをNNリード。剱の岩質は岩に手足が吸い付くようにフリクションがよく効いて気持ちが良い。数ヶ月前から使い始めたUNPARALLELのVEGAも好調だ。岩角やハーケンが其処彼処にありランナーにも困らない。岩も硬くグレードも概ねV級程度の易しい登りが続き核心の9P目の鼻手前まで快調にロープを伸ばしていく。基本的にリッジのフェース上なのでルートに迷うこともない。剱岳クライミング最大の醍醐味、アルペン的なロケーションを満喫しながら登る。楽しい。
10:47、8P目(鼻の1P前)。
トポによってルートのライン取りが直登と巻道に分かれていたが結果的に直登を選択。見える範囲には巻道にも踏み跡があり少し迷わされた。NNリードで直登していたが登攀中背中から不安オーラを感じたので途中からリードを代わった。少し時間をかけてしまったので後ろにピッタリくっついて登っていた大学山岳部2人パーティに先を譲った。
11:00、9P目、X級(W、A0)「鼻」。
下から見るとなかなか威圧的な壁に見える。言われてみれば鼻の形をしているような気も。到着時は先行していた別の大学山岳部3人パーティが登攀中であった。なかなか苦戦しているようでリードの方はなかなか激しく墜落していた。フォローもテンションをかけているしたくさん弱音を吐いて登っていてなにやら大変そうだった。
12:00、「鼻」登攀開始。
計2パーティ5名の最後の1人が核心を抜けたあたりで漸くクライムオン。1h近く待った。。今年のGW白馬主稜の山頂直下を思い出した。取り付いてみると最近ジムで登り込んでいるおかげかガバが殆どで難しさは感じなかった。中程の小ハングを越えるところが核心だろう。先行パーティがビレイで手をこまねいていた為途中で頭打ち。景色もいいので蝉になりながら写真撮影。フォローのNNはA0を交えつつスムーズに登っていた。
14:30-50、チンネの頭。
鼻を抜けてからの4Pは再びV級程度の岩場が続き終了点に到着。念願のルートを無事登り切ったのでゆっくり喜びを分かち合いたいところだが、渋滞もあり予定より2h近くオーバータイム。夕立も軽アイゼンでの雪渓下りもまだ不安が残るので小休止だけしてそそくさとチンネの頭から進行左手のコルへ踏み跡を少し下り懸垂支点へ向かう。ダブルロープで2回懸垂下降し池ノ谷ガリーに降り立った。ロープを畳み池ノ谷ガリーを15分程登り返すと池ノ谷乗越。
15:10-15:20、池ノ谷乗越。
長次郎谷右俣下る。上部はバックステップで下るが午後で雪も緩んでおり朝より歩き辛い。DSは可能な限り雪渓際の壁と雪渓の間を縫うように下り、NNは10本爪アイゼンだったので雪渓を下った。上部は壁のように立っていてキックステップをし続けた。怖くて心底疲れた。
16:10、熊の岩BC。
ようやく安全地帯。雪解け水で少々冷たいが水場の沢に足を付け疲れを癒す。稜線に抜けて電波が入ったら天気予報の情報を得ようと思っていたがすっかり忘れていたのでラジオで情報をとる。翌日も富山の天気は良さそうだ。夕飯のカレーを食べながら翌日の行程の相談をし、Cフェース剣稜会ルートから八ツ峰主稜に上がって順調であれば本峰まで足を延ばす事で話が纏まった。
20:00、就寝。

熊の岩から長次郎谷右俣方面

チンネ左稜線「鼻」

8/9(晴れ)
3:00、起床。
4:30、熊の岩BC発。
目の前のY峰めがけガレ沢をCフェースまでダイレクトに詰める。
5:00-5:15、Cフェース剣稜会ルート取り付き。
5P、V級。奇数ピッチDS、偶数ピッチNNリード。Cフェースで1番登られているラインでグレード的には易しいが高度感もあり楽しい良いルートだった。
7:15-7:30、終了点(Cフェースの頭)。
ここから八ツ峰主稜上半部縦走に入る。八ツ峰主稜は近い将来残雪期に訪れてみたいと前々から考えておりルート偵察の意味も込めて計画に入れた。
7:50、Y峰の頭から懸垂1回目20mくらい
8:00、懸垂2回目20mくらい
8:40、懸垂3回目20mくらい
9:00-9:15、Z峰から懸垂下降。
ここで偶然先行していたNNの知り合いガイドパーティ3人に出会った。相変わらず顔が広い。
懸垂下降は1回下って少し進んでまた下降という内容の約25m。1本で届いた。
八ツ峰の頭まではあとひと登り少し立った岩稜を登る。懸垂でロープを出していたのでそのまま八ツ峰の頭まで50mいっぱい引っ張った。
9:50-10:20、八ツ峰の頭。
スマホでこの先の天気予報が確認できた。入山前の予報より好転している。天気も安定しておりかなり順調に登れたので剱岳まで登ることにした。
池ノ谷乗越まで懸垂下降、約20m。
10:45、池ノ谷乗越。
北方稜線縦走に入る。八ツ峰主稜を登っている際に見えた北方稜線を下っている団体パーティが落石をかなりしていたので慎重にルートを選んで登る。長次郎谷右俣に降り立つ直前に補助ロープが張ってある箇所がありそこが1番悪く感じた。
11:45、長次郎谷左俣。
熊の岩への下降はここからなので不要な装備はデポして本峰への最後のひと登りに繰り出す。途中久し振りに雷鳥の親子を発見し癒された。
12:10-12:40、剱岳登頂。
何度も来たことのあるピークだが山頂を踏むことはやはりとても気持ちがいい。剱岳は日本で1番好きな山で色々な思い入れがある。山頂には10名程いた。今日は槍ヶ岳まで見渡せるくらい天気が良い。6-7年前に来た時より山頂の祠が新しくなっており、遊び心かライトセイバーなんかも置いてあった。大休止してから来た道を引き返す。
13:10-13:20、長次郎谷左俣。
NNは雪渓通しに歩き、DSは雪渓と岩壁の際を極力歩く。右俣の比べ傾斜はだいぶ緩く歩きやすい。
14:00、熊の岩BC。
水場で寛ぎ親子丼を食べたりしながらゆっくりしていたら、Y峰の方から「ロープが切れたー!」との声が聞こえてきた。Aフェース上部でトラブルがあったようで、かなり時間がかかっていたが無事に下りてきていた。落石でロープって切れるんだなぁと改めて注意しようと思った。
20:00、就寝。
今宵は残業パーティが多くこの時間になっても八ツ峰の方からヘッドライトの光やコールが聞こえたりしていた。また遠くの空では雷の光がチカチカ光っていて眠りに入りにくかった。

Y峰Cフェース剣稜会ルート面

八ツ峰主稜の頭を登る

剱岳山頂

8/10(晴れ)
3:00、起床。
ザックを2人で1つにしようと試みたが微妙に入りきらないため断念。40Lくらいのアタックザックが欲しい。
4:35、熊の岩BC発。
前回Dフェースに行った時は直接上がれたが、今回はDフェース取り付きが雪渓で埋まっていたため、昨日同様Cフェースへまず上がり壁の際や雪渓の割れ目を縫ってDフェース取り付きへ。
5:30、Dフェース富山大ルート(7P、W級)取り付き。
奇数PをDS、偶然PをNNリード。通常6Pだが2P目でNNがライン取りに迷い短く切ったため1P多くなった。
7:00、4P目テラス。
8:30、Dフェースの頭。
Dフェース頭から八ツ峰主稜の踏み跡を歩いて下る。X・Yのコルに降り立つためダブルロープ50mいっぱいで懸垂下降2回。
10:00、X・Yのコル。
X・Yのコルからガラガラの踏み跡を下りながらAフェース取り付きへ向かう。
11:00、Aフェース取り付き。
中大ルート(3P、W級)
最初の2P、DSリード。最後1P、NNリード。他のルートに比べ若干ピンが少なく緊張した。
12:20、Aフェース頭。
Aフェースの頭からすぐダブルロープで懸垂下降2回。13:20、X・Yのコル。
まだもう1本登ろうと思えば登れる時間だったが、A・C・Dフェース既に各1本づつ登れていたのでこれにて登攀終了とした。
14:00、熊の岩BC。
次から次へと雪渓を登ってくるパーティで、前日までは4張程度だったが最終的には13〜14張程度になっていた。
20:00、就寝。

Y峰Dフェース富山大ルート@

Y峰Dフェース富山大ルートA

お盆休み開始の熊の岩

8/11(晴れ)
3:00、起床。
4:30、熊の岩BC発。
山の日ということで続々と下から人が上がってくる。熊の岩は定員オーバーでテントが張れないパーティまでいる。
8:00、剱御前小屋。
剣沢には100張以上のテントがあり雷鳥沢にはもっとテントが張ってあった。剱に行くならやはり7月下旬(梅雨明け)〜8月上旬(お盆休み前)がベストシーズンだろう。
10:20、室堂下山。
室堂は山の日でお祭り騒ぎで人がごった返している。重い荷物を置いてミクリガ池温泉へ空身で移動。5日分の汗を流しコーラとブルーベリーソフトクリームを食べて解散した。

〜雑感〜
振り返ってみれば計画以上に120%登れて大満足の山行だった。それもこれも一緒に登ってくれるパートナがいればこそだ。色々と我儘に付き合って頂き感謝したい。長年の宿題も片付きテン場では次なる目標について話し合ったりした。来年の夏は槍穂エリアでクライミングの計画を考えようと思う。槍の西稜や北鎌尾根、涸沢BCで前穂北尾根・北穂東稜、滝谷、前穂東壁、屏風岩、錫杖、明神、岳沢など。色々あって目移りしてしまう。これから次なる目標に向かって自力を上げていきたい。(DS)

5日間も山に入るなんて大丈夫だろうか、いやどうせ1日ぐらい悪天候で停滞するだろう。不安と緊張で臨んだ5日間。ふたをあけてみれば5日間快晴に恵まれた。チンネ左稜線はもちろん、八ツ峰もY峰のクライミングも楽しかった。久々に剱岳の山頂にも立てた。体力もなく技術も低い、できることはカツ煮を作ることだけという私に、一緒に登ろうと声をかけてくれたパートナーには感謝しかない。次の山行はもう少しクライミングで貢献できるように頑張ろうと思う。(NN)