北海道大雪山忠別川支流クワウンナイ川遡行
2016年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバー中島忠男、佐々木正人、佐々木満喜与、野田孝幸、高橋るり子、佐藤一良(岳友)、小柳穂澄
記録:小柳穂澄
期間:2016年8月8日〜10日

 北海道パウダーフリークのメンバーが夏のクワウンナイ川にまで繰り出すことになるなんて。これには「ある計画」が先に立てられたことで、この際クワウンナイ川にもいっちゃおうという流れがありました。
「ある計画」とは、数ある航空祭のなかでも人気の千歳航空祭を、野田さんのおちからで大いに楽しんじゃおうという計画です。それに野田さん現役の今回が最後のチャンス!
計画が決まって驚いたことにパウダーフリークメンバーには元航空会社機長をはじめ、沢山の飛行機好きがいました。これだけの人数が集まるならば、航空祭後に例年になく大人気となっているクワウンナイ川遡行(森林管理署へ申請して遡行許可が必要/7〜9月のみ遡行可)も行きましょうと野田さんからの提案がありました。
航空祭には前日の家族&招待者対象日に参加させてもらい、普段は見る事の出来ない内容で楽しむことができました。日帰りで航空祭のみ楽しんだ方もいて、夜も千歳市内のキャンプ場で毎晩楽しい山海のBBQ。6月から北海道沿岸自転車旅行を楽しんでいる佐々木夫妻もそれに合わせて感動のゴールを果たし、7名でクワウンナイ川に入りました。
クワウンナイ川遡行前に、パウダーフリークOBへの訓練山行は必須と、高橋さんが沢歩きや奥多摩長距離山行を計画してくれ、9時間半歩いた後でもクワウンナイ川の大変さはこの1.5倍と叱咤激励。OBはその後も訓練を重ね、無事遡行できました。
今回の山行では、全員で完歩できる行動計画、疲れを溜めない食料計画など、あらためていろいろなことを学び、実践した山行でした。現役会員、岳友のみなさんの協力、OB会員の豊かな経験など、メンバーの各人のちからがひとつになり、天候にも恵まれ、全員で完歩できたと思います。
メンバーのみなさんに感謝で一杯です。沢の美しい景色もさることながら、みなさんとご一緒できた感動をありがとう!

8月8日 クワウンナイ川出合清流橋駐車場(5:00)〜ポンクワウンナイ川出合(5:25)〜ゴルジュ(6:20)〜カウン沢出合(14:20)〜魚止ノ滝ビバーク地(16:10)



 前日に吹上温泉白銀荘に泊ったメンバー5名と航空祭で忙しく未明に千歳を出発した野田さん、佐藤さんと清流橋で合流。身支度を整え共同装備を分ける。全員完歩の目標から私は軽めの分担となり、申し訳ないと思いながらも、3日間ペースダウンにならないで歩くことを優先に考える。
 登山口からガードレールもあるかつては車道?のような道を30分ほど歩き、ポンクワウンナイ川出合いで河原に降りる。以前遡行したことのあるリーダー野田さんはやや多めだが問題ない水量と遡行を決断。
じきにゴルジュがあらわれた。佐々木夫妻は右岸を大きく高巻き、他のメンバーは残置ロープを見つけ右岸に沿って踏み後を行く。
その後は単調な河原歩きと徒渉だと聞いたが、徒渉経験の少ない私には毎回良い練習だ。今回ストックを持参し本当に良かった。


野田さんが教えてくれたのだが、クワウンナイ川はアイヌ語で「杖をついて渡る川」という意味だそうで、昔の人もやはり杖は必須だったのかと納得。膝を超える水量の場合は2人で腕などを組んで渡った。たいがい私の後ろにいた佐藤さんに「お願いします!」と言っては随分と助けてもらった。佐藤さんとは5月の山スキーもご一緒したが、体力が常に有り余っている頼もしい方だ。クワウンナイ川の事故は徒渉の際に流されることが多いと聞いていたので、不安はいっぱい。実際徒渉の際に、近くの大きな岩につかまろうとして両足が浮きそうになり危ない思いもした。その場で野田さんにしっかり腕を確保してもらって体制を立て直せた。「徒渉の時には安易に体重を抜かないように」を心しなくては。



 歩く順番も先頭は頼もしいルートファインダーの佐々木さん、次が満喜与さん、その後ろに小柳、中島さんと、高橋さんがコース取りに無駄な歩きがないよう気を配った。3番手4番手を歩くと、先頭がコースを変えても無駄に戻ることもない。安全なルートをとる満喜与さんの後ろをなるほどと思いながら歩く。
順調に遡行がすすんで時間もあると確認し、11時45分頃から釣りタイム。釣り竿は2本なのに、最初のポイントですでにひとり2尾は食べられるぞと期待大。場所を上流に移しても、釣れる、釣れる、の大満足で、魚はその場でしめて処理も済せることを野田さんに教わる。
本日のお宿は魚止ノ滝の高巻直下の幕場で、平らな草原でグッド。夕ご飯で使う水、明日の行動の最初に飲む水を浄水器で浄水する。北海道の沢水はエキノコックスが心配なため、浄水するか煮沸するかの作業が必要だ。宴の準備では魚の串打ちも沢流(踊り串なんかではなく、口からブスッと入れ尾手前で止め、串は長くするのだ)を高橋さんに教わる。濡れてしまった体も焚火で乾かす。1日目を予定通り歩けたことに安堵しつつ、全員で魚止の滝にいることを喜び、ビールで乾杯。担ぎ上げた2キロのラム肉や釣果のオショロコマは塩焼き、香草焼き、骨酒でいただきました。骨酒おいしかったぁ〜!



8月9日 魚止の滝(7:30)〜ハングの滝(9:35)〜二股の滝(10:40)〜登山道(14:30)〜ヒサゴ沼避難小屋(16:50)



  早朝少し雨がぱらついたがすぐ止む。一晩お世話になった素敵なテント場には私共の痕跡を残さぬようにと高橋さんが焚火の中のゴミを丹念に拾い、私共もそれに習う。どうも天気は高曇り。今日はクワウンナイのクライマックス「滝ノ瀬十三丁」を歩くのだが、リーダー野田さんはメンバーに青空でのそれを見せたいようだが諦めて出発。魚止ノ滝左岸を高巻き、降り立ったその先には一面のグリーンカーペットが敷かれていた。どこでも歩けるようななだらかさで足を置くと5センチはあろうかというような毛足の長い苔のカーペットだ。結構な流れの中でも苔は成長している。昨日から誰にも会わない。沢は貸し切り状態だ。みんなで写真を撮りながら流れを楽しむ。
 ハングの滝はせっかくだから流れの裏を通り、マイナスイオンをたっぷり浴びてから高巻いた。高巻は残置ロープが3本フィックスされており、傾斜も結構あるので、スタンスを見つけ腕に負担がかからぬように登る。その後上に踏み後を辿るとT字路状の踏み後にでるが、右に降りて行くとビバーク適地があり、そこから沢に降りる。ここの踏み後は左上に上がる道もあるが途中で行き止まりとなる。
二俣の滝の高巻は二つの沢の中央部分から高巻きが始まる。沢に降りる手前にもビバーク適地があった。しだいに沢は細くなっていくが、そんな小さな御釜にも魚を見つけた。その後沢に平行して踏み後が出てくるが、なるべく沢筋をつめた。1640m付近で沢の流れは消え、つめは藪なんかではなく、お花畑(やや遅かったかチングルマは綿毛)と雪渓だった。ここでビバークしたいなと思うような素敵な風景。でも最後のつめは大岩の堆積地で疲れた体でバランスをとりながら結構消耗する歩行だ。
つめの大岩堆積地に出る手前で、ザックに入れた携帯が急にメールを受信し始めたので、そのことをリーダーに伝え、リーダーは予定通りの行動であること、トムラウシには行かないこと、今晩はヒサゴ沼で宿泊し、明日予定どおり下山することを緊急連絡先と代表にメールした。後に登山道に出たところで携帯を確認したが、携帯のアンテナはもう立っていなかった。
日本庭園から天沼は木道も出てきて湿原のような池塘もあり天気が良ければのんびりしたいところだ。
ヒサゴ沼への最後の下りは急な雪渓があったが、左のガレ場に入れば滑ることなく下れた。ヒサゴ沼避難小屋は人気の小屋だと聞いていたが、我々が付いた時点で1階はすでに満員で2階にスペースがあり一安心。無人小屋だが綺麗に使われている。また水づくりの作業班と分かれて小屋の2階で夕ご飯の準備。今晩はボリュームたっぷりのスパゲッティー鍋だ。
 トイレに落ちぬように気を付けよとの助言をもらい、寝る前に行ってみた。床板に穴が開いただけのトイレだが、小屋同様綺麗に使われている。シュラフに入り、2階の窓から星空を眺め〜と思っている内に眠りについた。

8月10日 ヒサゴ沼避難小屋(6:00)〜化雲岳(7:20)〜第二公園(9:50)〜第一公園(11:40)〜滝見展望台(13:30)〜天人峡温泉登山口(14:30)

 2日目の朝食から疲れを取るビタミンB投入にとスパム缶(豚肉)がメニューに登場。3日目の今朝も力そばにスパムのトッピング。缶ではなくレトルトパックがあるといいのだが。ビタミンBはブドウ糖をエネルギーに変える時に必要なビタミンだ。いくらデンプンを摂ってもビタミンBが不足するとエネルギーにはならず逆に疲労物質の「乳酸」になってしまうらしい。そういえば現役時代の合宿に必ず登場していたニンニク丸焼きもビタミンBだ。
今回は3日間歩き通せるように、カロリー不足にならないメニューが用意された。若い頃とは違い、疲れは回復せずに蓄積されていくに違いない。沢では常に濡れて天気が良くても体温も奪われるので、行動食もコマ目にとるように努めた。水分補給もエネルギーやミネラル、クエン酸が取れるものを飲んでいた。野田さんはOBに最適と菓子パンも1個500キロカロリー超えの高カロリーのものを紹介しすすめた。

食料計画(担当:野田)
月日 朝食 夕食
8月8日 ジンギスカン
肉2キロ、ピーマン1袋、玉ネギ2個、もやし3袋、ナス1本、パック御飯4個、
8月9日 チーズおじや
チーズおじやの素7袋、パック御飯4個、スパム缶1個 スパゲティー鍋
スパゲティー鍋の素2袋、パスタ300グラム、パック御飯1個、しめじ2パック、とろけるチーズ7枚、ソーセージ7本、プチトマト14個、人参1本、じゃがいも2個、ブロッコリー1個
8月10日 力うどん
インスタントそば5袋、鍋用餅1袋、スパム1缶
予備食 フルーツグラノーラ400グラム
スキムミルクスティック7本、スパム缶1個 インスタントラーメン7袋



 今日の登山道歩きは、ぬかるみが多いと聞き沢靴を履いて下る。朝食後に本日の長丁場のために浄水づくりをしてからの出発。ヒサゴ沼からの登山道は登りも苦にならないどこまでもなだらかな斜面に一面のお花畑だ。
 すぐに化雲岳のめだつ岩が見えてくる。岩の上に登って写真をとったりゆっくり休憩。携帯も使えるので本日合流予定のせいちゃんに下山予定時間の電話を入れておく。今日は昨日よりいい天気で、左手後方に十勝岳、右手に大雪山という大展望を眺めながら登って来たクワウンナイ川の窪みを確認する。途中まだ新しい熊の糞を登山道に見つけた。それ以後、背丈までのハイマツ帯の通過も緊張し、声をあげたり、笛吹いたりで歩く。遠くに見えていた旭岳もロープウェイの鉄塔が見えるころには第二公園を過ぎていた。ここ数日雨は降っていないようだが、ぬかるみは部分的にあり、雨後はひどい状態だろう。沢靴の方がいいとの記録もそのとおりだと思った。第一公園で昼食タイム。ラーメンを茹でて塩分補給をするという。山行中の昼に温かい物を食べるのは初めてという贅沢であったが、スパムのトッピングもあり、塩分をしっかり摂ったためか休憩後の足取りは確実に軽くなった。



 第一公園を過ぎると、あと3時間の行程だ。稜線から羽衣の滝がよく見える滝見展望台まで登って来たせいちゃんと合流でき、皆でクワウンナイ川遡行ができたことを喜ぶ。天人峡温泉に降りると、駐車場には足湯があった。ありがたく、足を温泉につけて労う。その日は吹上温泉白銀荘(十勝公営自炊宿 2,600円/1人)に泊り、山&温泉&酒の大祝賀会となりました。

                     以上