中国・四川省の山と旅
2011年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバー:小野寺、他
日程:2011年8月1〜26日 報告小野寺 斉

本記録は2011年8月に東北大学山の会のメンバーと一緒に行った時の記録概略である。 

目標はカワロニ峰,ポルジャモ峰
昨年8月1日〜26日,中国・四川省に出かけた。目標は四川省に残る未踏峰のカワロニ峰(5992m),ポルジャモ峰(5816m)だった。6月初旬,隊員を募り,東北大生2名を含む5名で登山隊を編成した。記録によると,カワロニ峰は,1993年に山梨県山岳連盟が偵察,2005年秋には英国隊が地元ラマ僧侶の強行な反対で引きずりおろされた、とあった。ポルジャモ峰は,2000年秋に中村保氏が撮影した写真だけだった。
7月9日,中国登山協会から目標の山の「登山許可証」を正式に入手した。先発隊1名が24日,本隊4名は8月1日に出発、とした。先発隊は7月27日,康定で四川大地探検公司の社長と一緒に,甘孜蔵族自治州大域局の副局長(同州登山協会会長)に面談し目標の2峰は信仰の「聖山」であるので絶対に登山は認められないと強く拒否された。丹巴在住の大川健三氏のアドバイスで四姑娘山群の未踏最高峰・日月宝鏡(リーユエバオチンGoromity 5,609m)に目標を変更した。

<日月宝鏡山>
8月1日,本隊4名が羽田からANAで成都に到着した。日月宝鏡山の資料,写真をネットで集録し食料,装備を現地調達で揃えた。日本語の達者なベテランガイド,シェルパ,料理人を加えた8名が日本製四輪駆動車2台(運転手は中国人)に分乗し日隆へ向けて出発。4日は雨。日月宝鏡山の東面・西面を軽く見た。5日,2隊に別れ東面の長坪溝と西面の双橋溝からルートを偵察する。6日,民宿オーナーより紹介された地元農民に案内され大牛場沢を詰める。荷上げは現地人15名と馬4頭で4,250mにBCまで2日間を要した。10日,A・BC(4550m)を設営。11日,3名でルート工作に向かった。4,850mでアイゼンを装着,南東のコルに突上げる。この先ルンゼしか登攀ルートは無い。
シェルパが30mほど登ったが,「ここは危険だ! カトマンズには家族もいる」と叫ぶ。このあたりは褶曲山脈で,粘板岩のもろい材質。落石が多く登頂は危険が多く,断念する。12日,第2隊も登ったが,落石の危険が多いことを再確認する。この峰が未踏峰であったことが判明した。13日,A・BCを撤去。

<Kawarani/カワロニ峰> 
15日,日隆から川蔵北路を丹巴,道孚,甘孜まで,道路工事で土ほこりの中,ドライブする。カワロニ峰山麓への脇道は車両が入れないため,地元チベット人と強引に交渉し,1人1000元でバイクの後部座席にしがみ付き,北面壁を正面に見る地点(3920m)まで到達,写真を撮った。周囲の畑はグリンピースの刈入れ作業中だった。

<Polujab/ポルジャモ峰>
16日,竹慶寺に到着。途中,左手に山が見えた。17日,2隊に分かれる。東面・小野寺隊は,竹慶寺の若い漢族の僧侶に案内してもらって寺の裏手から直登ルートを進む。若い僧は,ポルジャモという山は聞いたことが無い,このあたりの最高峰はセジョンと称されて,チベット仏教の十大聖山だといった。4,400mまで登り雪を冠った主峰を撮影。「あれがセジョン峰だ」と言って降りていった。
西面・大江隊は街まで降り,西隣の沢(海浪柯)に入り,南方の正面源頭部に顕著な岩峰を確認した。案内してくれた村長は「ポルジャモ峰」と称した。広い幅の沢はヤクが放牧されていた。藪を漕いで3,4回渡渉を繰り返して,午後4時,4,415mまで登る。ポルジャモ峰の左手の雪に覆われた三角錐の高峰を村長は「セジョン峰」と称した。

<徳格,白玉など> 
18日,徳格,白玉経由で2,3日で甘孜に戻った。19日,ラマ経典の印刷で有名な徳格の印教院サカ派の寺を訪問した。木版印刷は,すべて「2人ひと組」の人手による力仕事で,2人の息が合わないと円滑に進まない。修行僧が一心不乱に読経するが如く迫力があった。白玉へは,長江(揚子江)の中流域(金沙江)の左岸沿いの土埃りの道を進む。右岸はチベット自治区で車両道路は見当たらない。白玉では買い物ができたが,昌台では外国人の滞在と宿泊は許可されず,車中から撮影をするだけで通過する。路上で若いラマ僧と公安が互いに小づき合っているのを車中から眺めた。
20日,沙堆(シャドイ)村を再訪問した。05年に英国隊を案内したと言う村の若いガイドは,我々が行こうとする沢の隣の沢へ案内しようとするので,ガイド抜きで登ることにする。沢を直登しようとしたが,取り付き道が分からない。近くの民家で2人の少女に登山目的を告げ,案内を乞うた。両親が不在なので渋っていたが,50元で交渉して次女が引き受けてくれた。庭を抜けると,裏手から放牧用の踏み跡が尾根に直上する路があった。絶景ポイント(4,230m)まで登り,純白の美しいカワロリ峰を撮影できた。
21日,チベット族の少女の家族(夫婦,1男3女)に登山隊の余った装備品を贈呈して喜ばれた。甘孜,理塘,康定へは霧と泥の中を2日間,雨中ドライブ,磨西へ迂回してミニヤコンカの拠点の村でラモシュ及び白海子山の迫力ある雄姿を間近に見ることができた。23日夕方,成都に帰着,和食レストランで日本酒を呑みながら総括した。
                               以上

なお、詳細な記録は下記文献に記載されている。

1. ユンシス(横断山脈研究会2012年3月発行)
2. 四川省未踏峰登山隊報告書(東北大学山の会2012年4月発行)
3. Japanese Alpine News 日本山岳会2012年4月発行

写真


日月宝鏡山  5609m


Kawarani/カワロニ峰 5992m


セジョン峰 5816m+α