黒部上の廊下
2010年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバー:錦織良・佐々木正人・佐々木満喜与

ルート概要: 黒部ダム→奥黒部ヒュッテ→上の廊下→薬師沢小屋→太郎平小屋→有峯湖折立

日程:平成22年8月4日〜平成22年8月8日

記録
本格的な沢登りは現役時代から離れること30年以上、メンバーのうち二人はもうすぐ還暦を迎えようとする年齢であるが、昨年の昭和記録に現役の下田君の遡行記録を見て「もう一度」の思いが募り、現役時代にあしげく通った黒部の中でも上の廊下への遡行をしてみたかった。

平成22年8月4日
新宿発夜行にて信濃大町へ、タクシーで扇沢に入り7時30分の始発トロリーバスへ乗り込む。黒部ダムからは一般観光客と別れ平ノ渡場へ向かう。 天気は快晴、ヘロヘロになりながら11時30分平ノ渡場に到着。12時の渡し時間で対岸に渡り、梯子のアップダウンを何度も繰り返してやっと奥黒部ヒュッテへ到着。今日はここまでとしてツエルトを張る。ビールを買って入山祝い。小屋の主人の話によると、お盆前の今の 時期はまだ水量が多く成功率は低い。昨日上流から下ってきたガイドの近藤氏?も水量が多すぎて下流からの遡行は難しいと言っていたとの事。登山届けを出して行けるところまで行って見る事にする。

平成22年8月5日
天気晴れ、昨日同行の男性三人パーテイは上の廊下から東沢谷へ予定を変更し、上の廊下入山は我々のパーティのみとなった。6時頃テント場を出発。 水量は多いと思うが、比較する対象を知らない我々は黒部はこんなもの?と渡渉に入る。渡渉は沢幅の広いところで腰の当たりまで、特に背の低い 満喜与さんは手をつながないと流されてしまう。処によっては三人で手をつないでの渡渉を繰り返す。じきに歩いての渡渉は出来なくなり ザイルを出しての渡渉となる。水は冷たく上着にシャツ一枚だけだった私は体を締め付けられるような感覚を覚え、日向に出ても容易に震えが止まらない。 今回佐々木が救命胴衣を一着持ってきており重宝した。まずは空身に救命胴衣を着て流されることを予測して対岸へ、次に救命胴衣を戻してザック のみ対岸へ、次にセカンドと続いて渡渉を繰り返す。下の黒ビンガを過ぎる頃から沢幅が狭くなり、何度もザイル渡渉を繰り返す。 廊下沢出会いの少し手前と思われるところで対岸に渡れず進退窮まる。佐々木が二回泳ぎ、錦織も飛び込んで挑戦するが水流に流されて 対岸に渡ることが出来ない。休憩して上を見上げるとバンドが潅木帯へ続いている。潅木帯からは10メートルの懸垂で本流に降り立つことが出来た。 ここからは広河原へと続きホット一息、時間も3時近くとなり中ノタル沢の出会いでツエルトを張る。早速イワナ調達へと竿を出すが釣果ゼロ。

平成22年8月6日
天気晴れ、昨夜は満天の星に天の川まで見える透き通るような夜空であった。6時頃歩き始める。朝の渡渉はつらいが渡渉を繰り返してしばらくすると 上の黒ビンガを右上に見上げる。何度か泳ぎ飛び込みの、ザイル渡渉を繰り返し、谷が広くなる手前でザックをザイルで引き上げる途中に水流に阻まれ 水の落ち口からザックを引き上げることが出来なくなってしまった。重くて全く引き上げられない、まるで洗濯機の中にザックを入れたような状態。 何とか二人係で回収に成功するも中のものはすっかり水を吸ってしまった。谷が広くなり中洲があるところで金作谷出会いを通過。 再び渡渉を繰り返すうち30メートルほどの淵に行く手を阻まれる。淵の奥左手に水の落ち口が見え淵の右手は流心となり取り付くことが出来ない 淵の左手の壁に沿って泳ぎを試みるが意外と水流が強く前に進むことが出来ない。諦めて戻る。右岸を高巻くこととするが時間も2時30分となり、 少し戻った砂地にツエルトを張って濡れたものを広げる。イワナ調達に向かい、釣り上げたイワナを落としてしまい今日も食べることは出来なかった。

平成22年8月7日
天気晴れ、6時頃歩き始める。前日の淵の手前右岸の小さな沢から尾根に取り付く。獣道とも踏跡とも思える尾根を辿り小さく高巻き1時間半ほどで 本流へ降り立つことが出来た。赤牛沢出会いを過ぎしばらくすると岩苔小谷の出会いの立石となる。立石を過ぎると立石奇岩。大きな岩が転がる 歩きにくい河原を遡行し小さな淵に阻まれ左岸の壁に取り付く。セカンドの満喜与さんが取り付くも横に振られ3メートルほど落下。水の中に 背中から落ちるも負傷無し(ラッキー)。正面に雲の平へと上るA沢からC沢が見え地図上のゴルジュの記載がある近辺で左岸壁を10メートルほど 懸垂して本流に立つと、対岸にB沢出会いの赤文字。しばらく進むと大東新道を経て薬師沢小屋へ3時頃到着。 大勢の一般登山者の仲間入りをする。計画では奥の廊下を遡行して高瀬ダムへ抜ける予定であったが思いのほか時間がかかり 計画はここまでとし、明日は太郎平小屋を経由して有峰湖へ抜けることとする。薬師沢小屋で泊まりの受付をしていると、今シーズン 上の廊下を下から遡行したのは我々が最初とのことであり、沢の状況を明日太郎平小屋へ報告してほしいとの依頼を受ける。 小屋の前のテラスで荷物を乾かし、まずはビールで乾杯、上の廊下の遡行成功を祝う。

平成22年8月8日
天気曇り、4日間続いた晴天も今日は雲が出てきており朝焼けが見られた。今シーズン折立からの有峰林道小見線は不通の為、林道大多和線経由で 富山までの便となり、折立からの便は10:30と12:30の二本のみとなる。薬師沢小屋を4時前に出発6時30分太郎平小屋へ着き 富山県警香川氏(昭和会員野口さんの大学の先輩とのこと。奇遇でした。)へ上の廊下の状況を報告する。太郎平小屋からは奥黒部ヒュッテへ 無線による報告がなされ次の遡行者への情報として活かされるようだ。 太郎平小屋からは大勢の一般登山者の上りと行き交い折立10時着、一便に間に合うことが出来、3時間40分のバスの旅で富山へ到着。

感想
やはり黒部、水量の多さもさることながら期待以上(正直我々の年齢には厳しかった)の満足度でした。 天候に恵まれたことが幸いし成功することが出来たが、今の時期の水量も確かめず少し甘く見ていたところは反省点です。 装備に救命胴衣を一着持っていったことは大変助かった。
錦織のビデオカメラは防水のため無傷でしたが、携帯もデジカメも記録時間も水没のためNGになってしまいました。 そのため記録時間は概略、沢中の記録写真はビデオのためありません。添付の静止画写真は使用前の佐々木夫婦と使用後の錦織のみです。