白神山地(追良瀬川〜ウズラ石沢)
   葛根田川…増水により中止、おまけで岩手山
2009年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバー:下田隆三、鈴木太朗(学習院大学探検部)

日程:2009年8月9〜14日

8月8日:東川口(18:30)~白神岳登山口(2:00)
 東川口18時集合であったが太朗は相変わらず予定通り30分の遅刻。一路白神山地へ。
お盆前の土曜日ということで渋滞を避けるために夕方出発にした。日中は久喜ICから30kmの渋滞になっていたが、19時を過ぎるころにはほとんど渋滞は解消していた。
岩槻ICから秋田県の能代南ICまで約600km。太朗は前日に中央アルプスの縦走から帰ってきたばかりでかなりお疲れの様子。岩槻ICから高速に乗ると早速眠りはじめ、能代南ICまでの約6時間半一度も起きることなく爆睡していた。
 能代南ICからは1時間ほどで白神岳登山口駅に到着。しかし、駅の中には宿泊禁止の文字が。駐車場もなかったので白神岳の登山口駐車場に移動した。
登山口は広い駐車場で2〜3台の車が止まっていた。車の外に出ると意外に暑い!しかも蚊がすごい!とにかくじっとしていると蚊が大量に寄ってくる。
しかしあまりの眠気にさっそくテントを張って就寝。一応テントの外に蚊取り線香を焚いておいた。

8月9日:白神岳登山口(5:40)~白神岳登山口駅(6:30)~陸奥岩崎駅(7:15)~追良瀬大橋(8:45)~追良瀬川堰堤(9:40)~一ノ沢(11:30)~二ノ沢(13:30)C1
天気:晴れのち曇り
 登山者の声で目が覚める。白神岳に登る登山者のようだ。テントを出ると昨日よりも3~4台車が増えていた。
 それにしてもアブやブヨが本当に多い。油断しているとめちゃめちゃ噛まれる。アブ、ブヨの襲撃を受けながらすぐに用意して出発。
今日は陸奥岩崎駅に岩崎タクシーを8時に予約しているため7:04発の電車に乗らなければならない。白神岳登山口から駅に向かって道路をひたすら下る。樹林の間から海が見えてきて気分が高まってくる。
白神岳登山口から駅までは30分ほどで着いた。駅は無人駅で自分たち以外には誰もいなかった。電車がくるまでまったり。

しばらくすると遠くから1車両の電車がやってきた。五能線だ。電車マニアにはたまらないだろう。

白神岳登山口駅から陸奥岩崎駅までは2駅10分ほど。進行方向左側には海が見え右後方にはこれから目指す白神岳が遠くに見えた。う〜ん、最高の景色だ。
 陸奥岩崎駅に降りるとまだタクシーは来ていなかった。8時に予約していたので、タクシーが来るまで周辺を散歩した。
 
 ここで太朗がライターを忘れたことに気づき近くに商店がないか探すことに。駅前に商店があったもののさすがにこの時間には空いていなかった。だれか中にいないか覗いていると、「何か用ですか〜」と店の人が出てきてくれた。
 とりあえずライターを売ってもらえないか聞いてみると、ライターぐらいならとタダでいいよともらってしまった。やっぱり地方の人たちはいい人だ。
 7時50分にタクシーがやってきた。青森弁の40歳くらいの男のドライバーでとても人当たりがいい。追良瀬大橋に行くまでに湧水の場所や白神岳が見える展望台などで随所に止まって説明してくれた。今年の水量について聞くと、今年は例年並みということであった。
 追良瀬大橋に着くと、タクシーの運転手がゲートを開けてくれて1kmほど中まで入ってくれた。その間車が2台ほどとまっていた。登山指導センターの車だろうか。
 追良瀬大橋からは追良瀬川堰堤まで約15分。入渓前のウォーミングアップにちょうどいい距離だ。追良瀬川堰堤は堰堤右側に巻き道があり簡単に巻ける。

 追良瀬川堰堤を越えるといよいよ追良瀬川だ。左岸からマッタノ沢が出合っておりここで遡行の準備をする。
 出発すると、いきなり10分ほどで人に出会った。どうやら釣りをしているようで竿を持っている。白神山地はご存知のとおり世界自然遺産に登録されており、釣りはもちろん禁止されている。
 我々が通っても全く意に介することなく釣りを続けていた。こんな下流でしかも真昼間から釣りをしているなんて…。われわれに注意する義務もないのでそのまま素通りしたら向こうからあいさつしてきた。だいたんな奴だ。
 入渓から一ノ沢までは広い河原が続く。まだブナの原生林という様相ではないが、天気もよく膝上程度の渡渉で済むので快適だ。今日は二ノ沢までなので、休憩をとりながらゆっくりとすすむ。



 淵では魚が悠々と泳いでいて魚影がとても濃い。魚が釣れないなんてとっても残念!
 一ノ沢から20分ほど行ったところで赤い帽子をかぶった人が沢を下ってきた。どうやら森林監視員ということで、白神山地の入山マナーをレクチャーされた。特に釣りと焚火をしないようにと強く念を押された。釣りも焚火も禁止なんて沢登りの醍醐味をすべて取られてしまうようなものだが…。ただここでは多くは語らないことにしよう。
 二ノ沢に着くと左岸によいテン場がありそこにテントを張った。
 昨日はほとんど寝ずに運転して今日も2時間ほどしか寝ていなかったので、沢の音を聞きながら昼寝をしたりして過ごした。

8月10日:停滞
天気:強雨のち弱雨のち曇り
 朝5時ごろテントをたたく雨の音で目が覚めた。結構強く降っていてテントの中も雨水が浸水してきている。
 外の状況を確認しようと思いテントを出てみて驚いた。昨日の透き通るような清流が茶色く濁って濁流と化していた。おそらく1メートル以上は増水しているのではないだろうか。とりあえず太朗を起こししばらく様子を見てみることに。
 
 しかし、1時間たっても一向に止む気配はなくむしろ雨脚は強くなってきた。さらにテントから3mほどのところまで水量が増してきており、これ以上増水すると危険なところまで水量が迫ってきた。テントの中の荷物を片づけ、さらに増水するようであれば背後の斜面に避難することとした。
 これまで沢の中で雨に降られたことはあってもここまで増水するのを見たのは初めてであった。昨日膝上ほどの渡渉ですんだところが、今では全く渡渉などできそうにない。というより入ったら堰堤まで流されてしまうだろう。
 太朗に明日もこの状態が続くようであれば天狗岳にエスケープして引き返すこともあるかもしれないと伝え、しばらくテントの中でじっとしていた。
 11時くらいになると雨もとぎれとぎれとなり、増水も止まった。依然として沢は濁流であるが、若干ではあるが水が引き始めたようであった。
 今日は何もすることができないので、太朗とひたすら横になっていた。
 午後になって外をのぞいてみると、こんな増水の中でカルガモの親子のような動物が悠然と泳いで行った。後で調べてみたらシノリガモという名称であった。増水で緊張していたところだったのでとっても和む光景だった。

 結局この日は水が引かないため一日停滞を余儀なくされてしまった。明日の好天を願って18時に就寝。

8月11日:二ノ沢C1(6:00)〜ウズラ石沢出合(9:30)〜白神岳山頂(13:30)〜白神岳登山口(16:00)
 朝4時半に起床。テントから顔を出すと月が出ていた。今日は天気が良さそうだ!
今年はとにかく天気が安定していなくて特に東北地方は梅雨明け宣言が出ていないほど。
せっかくの白神山地なのでもっとゆったりと遡りたかったが、また雨が降られて増水するのは避けたいので一気に山頂まで行くことにした。
 昨日の増水はひいたものの若干濁っている。それでも十分渡渉できる水量に戻っていたので出発。
 二ノ沢から三ノ沢までは広い河原が続く。天気は快晴だ。膝上までの渡渉が何度もあり、あと50cm水かさが上がるととても渡渉できそうにない。

 三ノ沢を過ぎるとすぐに小さなゴルジュが出てくる。泳げば簡単に突破できそうだったが、朝早くしかも水も冷たいので右岸から小さく巻く。
 ゴルジュを過ぎると前方に大きな滝が見えてきた。五郎三郎ノ沢の出合だ。ここで太朗と記念撮影。


 五郎三郎の沢出合からはまた穏やかな流れとなり、ゆっくりと遡行する。出発したときには濁っていた水も、段々ときれいになってきた。ときおり岩魚が目の前を横切り魚影がとても濃い。
 滝ノ沢出合までくると川幅が狭くなってくる。

 滝ノ沢出合からほどなくしてホンノ沢出合に到着。

ここから先はゴルジュとなり水量が多いと泳ぎになるということであったが、幸い膝上の渡渉で問題なく行けた。


 ようやくウズラ石沢出合について大休止。ウズラ石沢出合は大きな淵になっていた。
 
 ウズラ石沢に入ると水量が一気に減る。ウズラ石沢は特に難しいところもなく小さな滝が連続してなかなか楽しい。また本流と違ってブナの原生林をすごく近くに感じることができ幻想的な世界だ。




 途中随所に幕場があり余裕があればもう一泊してまったりしたいところであったが、天気の動向も心配なので先を急ぐ。
 どんどんと高度を上げていくと背後に白神の山々が見えてきた。

 そしてようやく最後の詰め。吉川栄一のガイドブックによると「完璧な読図、沈着なルート・ファインディング、野性的方向感覚、神仏のお導きが揃えばヤブこぎなしで、白神岳山頂に立つことができる。」と書いてある。しかし…。
 猛烈なヤブこぎとなってしまった。水がなくなってから最後の方に2つほど二股が出てくるのだがそこで2つとも左に行ってしまったのがいけなかったようだ。稜線に抜けたときは白神岳からかなり南に抜けてしまった。たぶん最後の2つの二股を右に行っていればヤブこぎがなかっただろうに。


 ただ稜線に抜けたときに目の前に日本海が見えた時には思わず2人で歓声をあげてしまった。
 
 稜線から頂上までは300mくらいで人がたくさんいるのが見えた。ただ頂上が見えているのに強烈なヤブのせいでなかなか進まない。結局頂上まで1時間近くかかってしまった。
頂上には藪からいきなり突き上げたので、頂上にいた人たちが熊かと思ってかなり驚いていた。
ようやく頂上について大休止。記念撮影の後、ソーメンを食べながら頂上で一泊するか下山するか太朗と打ち合わせ。

 頂上から夕陽が沈むのを見ようと思っていたが、ガスってきたのと早く下山して温泉に入りたかったので下山することに決定。

 下山は下山パワー全開!1時間半で駐車場に到着した。

下山後は海を見下ろせる温泉「ウェスパ椿山」でまったりして、近くの大間越オートキャンプ場に泊まった。

8月12日:移動日
天気:曇りのち晴れ
 今日は、八幡平の葛根田川に移動。朝は曇っていたが、葛根田川に着いたころには晴れていた。天気予報では明日は昼ごろから弱雨が降るとの予報であった。
 葛根田川の入口の滝ノ上キャンプ場で焚火をしまくる。

8月13日:中止決定
天気:雨
 朝テントに水が浸水して起きた。まだ4時だというのにかなり強い雨がテントをたたきつけている。外を見てみると、テントの周りが水たまりとなっていてその上にテントを張っている状態。とりあえず屋根があるところに避難してしばらく様子をみることに。
 6時くらいになって明るくなってきたところで葛根田川を見に行くと茶色い、濁流となって轟々と流れていた。昨日見た清流は見る影もない。
 ということで、早々に中止を決定し網張温泉に行くことに。温泉に入った後休憩所で2時間昼寝をして明日のことを考える。
 昼を過ぎても雨脚は弱まることがなく降り続けている。葛根田川は明日水が引かなければ予備日を使い果たしてしまうので登れない。
 せっかく岩手まできたのにこのまま帰るのはもったいないので、岩手山に登ることに決定。
 今日は雨も降っているので親戚の家に泊めてもらうことにした。

(おまけ)
8月14日:馬返(7:00)~八合目避難小屋(8:30)~薬師岳頂上(9:30)~八合目避難小屋(10:30)~馬返(12:00)









(感想)
 今回の山行は天気にかなり左右されてしまった。特に白神山地は十分な日程をとってゆっくり遡行するつもりだったのに、雨で1日停滞を余儀なくされ結局2日で全行程を消化してしまった。
 結果的に葛根田川も登れなかったので、追良瀬川でもう一泊すればよかったなぁと今さらながら思った。追良瀬川のとなりの赤石沢もいい沢のようなので、機会があればまた行ってみたい。