奈良井川〜中央アルプス主脈〜馬籠宿
2007年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
2007年8月6日〜14日

久留島 隆史(30) (昭和山岳会)
大谷 暁洋(32)  (無所属)

「木曽路はすべて山の中である。」(島崎藤村『夜明け前』より)という文章で紹介されている木曽路。この夏は、その木曽路を舞台にして、北の宿場町「奈良井」から中央アルプス(木曽山脈)主脈を縦断し、「妻籠」「馬籠」経由、木曽路最南端まで、これを「木曽路の旅2007」と勝手に名前をつけ、企画実行した。計画の中には、木曽路という名に最も相応しいと思われる沢として伊那川源頭部の下降を含め、これにより三の沢岳と主稜線を結んだ。登山道が切れる後半は藪漕ぎ覚悟である。

8月6日(月) 晴れ時々雨
朝7時過ぎに家を出て、鈍行を乗り継ぎ奈良井に着いたのが昼の1時。駅前から始まる宿場の町並みや、檜で出来た木曾の大橋を見て後から合流する大谷を待つ。3時のバスで栃洞沢出合まで。このバスは塩尻から権兵衛峠手前まで地元の人の循環バスで、どこまでのったとしても一律100円をダンボールで出来た小さな箱に入れるだけできわめて良心的だ。その先通りかかった軽トラックの荷台に乗せてもらい、ゲートの上まで一気に進む。トラックのおじさんに「この辺で熊に10回くらい遭遇したことがあるからおまえたちも気をつけろ」とさんざん脅されて出発。この日は、遠くでなる雷の音を聞きながら時々小雨に降られ歩くこと2時間、林道終点にあった工事用の小屋に泊まらせてもらった。

*奈良井林道ゲート上15:40 林道終点17:40

8月7日(火) 晴れ時々雨
 奈良井川は、信濃川の一大支流犀川の源流にあたり、中央アルプスでは唯一日本海に注ぐ沢である。同じく犀川の源流をなす梓川が上高地を中心に栄えているのに対し、こちらはとても静かだ。 林道終点にある工事中の堰堤を左から巻き入渓。昔の資料にはこの沢唯一のゴルジュがここにあったようだが、今はその面影も無い。最初は単調だが1900mをすぎたあたりからナメ、ナメ滝の連続となる。2250mに15m滝があり左から巻く。荷物が軽ければ直登できるだろう。その後もナメが続き、最後はたいした藪漕ぎもなく中アの主稜線に飛び出した。遡行時間4時間、そのうち大半がナメでロープも不要な、やさしい沢歩きの沢であった。
茶臼山を往復。ここから北は標高が急に落ちており、御嶽も乗鞍も、経ヶ岳さえも遠くの山。ここが中アの最北端、今回の旅のスタート地点に自分が立ったことを感じる。今日は木曽駒のテント場まで。

* 出発5:10 15m滝7:00 稜線9:10 茶臼山往復後出発10:20  西駒山荘11:00 木曽駒のテント場13:10

8月8日(水)  晴れ時々曇り
 宝剣岳を越え、三の沢岳へ。越百の小屋や南木曽岳、遠く恵那山までよく見える。花の美しい静かな山頂。鞍部より水量豊富な伊那川に降りる。源頭部の明るい草原には、きちんと踏み跡がついている。大谷は初めての沢の下降だが、楽しめたようだ。七曲沢出合は思ったより貧弱で特定に時間を要した。薪は豊富でよく乾いており、天気もよいので河原で盛大な焚き火をした。

* 出発5:30 宝剣岳6:00 三の沢岳8:00 伊那川下降開始9:10 七曲沢出合12:10

8月9日(木) 晴れ
 去年、一昨年と北アルプスの沢に行ったのでその感覚でゴーロの続く沢を予想したが、北と中央では森林限界が違っていた。七曲沢は出合から登ることわずか200m、あと標高差300mを残してただの藪となった。こうなったらひたすら根性の藪漕ぎ。なるべく藪の薄いところを選びながら2時間で稜線に達した。
 この日は天気も安定して稜線漫歩。空木岳の登りで大谷が完全にバテたので、この日は空木平避難小屋までとなる。山頂からこの小屋まで下るのにコースタイムの3倍かかった。

 *出発5:45 稜線8:45 発9:20 木曽殿山荘12:30 発13:00
  空木岳15:00 発15:20 空木平避難小屋16:50

8月10日(金) 晴れ
 今日は休養日。小屋にいた全員が出発した後ゆっくり起きて、半日行動で南越百を越えて少し下ったところにテントを張る。水は中小川の登山道を少し降りて汲む。往復1時間。  

* 出発6:30 空木岳7:20 発7:40 南駒ヶ岳9:40 越百岳12:00 発12:15 南越百岳12:40

8月11日(土) 晴れ
 一日笹薮。踏み跡ははっきりしており赤テープも多いので、迷うことはない。背丈ほどの笹が一面に茂り、休むスペースすら見当たらなかった松川乗越は印象深い。朝露で服も靴もびしゃびしゃに濡れてしまい、午後は小屋の周りで物干し大会となる。こんなところに人はあまりこないだろうと思っていたら、3時に1人、5時に4人パーティー、更に暗くなる直前の7時に5人パーティーがきて小屋は超満員であった。お盆の時期の小屋はこりごりだ。

* 出発4:50 奥念丈岳6:30 松川乗越9:00 安平路山11:45    安平路小屋12:30

8月12日(日) 晴れ
 摺古木山の展望台から藪をかき分け、ピークより南西に少し下ったところに小さな小屋(鍵がかかっていて中には入れない)がある。偵察の結果、この小屋の裏手の尾根をいけるところまで降ることにする。エアリアマップにこの辺りの藪はひどいというようなことがかかれているが、全くたいしたことはなくむしろ昨日の方がひどいぐらいである。藪が少しうるさくなり始めた1700m付近より支沢を下降し、与川本流上山沢に降り立つ。沢を登山靴で歩いていたら不注意で浮石を踏み、手も足もぬめった岩で滑り顔面を強打した。途中、大谷が動かなくなったので、共同装備全てと個人装備の一部をザックに入るだけ受け取る。1400m付近から右岸の廃道を使う。最初のうちはかなり荒れているが、地形図で道が九十九折になるところ(ここに工事現場の廃屋あり)の手前からは笹が覆うものの立派な林道となる。やがて廃道を抜け車道に飛び出す。車にも人にも会わず、アブに何箇所か刺されながら歩くこと3時間、南沢の出合にテントを張る。

* 出発5:00 摺古木山7:00 発7:30 上山沢11:00 廃道12:00 車道14:30 発15:00 南沢出合17:45

8月13日(月) 晴れ
 ここまでのんびり歩いてきたとはいえ、一週間たつとさすがに疲れもたまってくる。朝起きるのを1時間遅らせたが体が重く、昨日岩にうったせいで目の上が大きく腫上がっている。
 20分歩くと林道終点。ここより標高差300mの藪漕ぎ、もしくは沢歩き300mの予定であったが、思いがけないことに登ろうとしていた沢沿いに道がついていた。道は、支沢を右の尾根の1327mに登り、更に尾根の左斜面に1440m付近で登山道に合流するまで続いており、赤テープ、木の梯子などでよく整備されていた。地形図には載っていないが、林道終点から山頂までわずか2時間で着く、南木曽岳への最短ルートである。
 避難小屋から南木曽岳へは10分で着いたが、山頂は展望がなく、小屋前の展望台で一時を過ごす。ここには見える山の写真とその名前が1つ1つ書いてあり、とても便利だ。北は将棊頭山から南は摺古木山まで、一週間かけて歩いた山並みが目の前にある。ついこの間登った空木岳が、何だか遠い昔に登った山のように思えてくる。
 蘭へと下山。下るにつれ蝉の鳴き声が激しくなる。家族連れで賑うオートキャンプ場の脇をいくつか抜け、南木曽温泉の「木曽路館」で風呂と飯とビールでとりあえず打ち上げとする。ここで帰る大谷と別れ、不要な荷物は宅急便で家におくる。
妻籠から大妻籠まで歩く。今日はここにある「つたむらや」という宿に泊まる。大妻籠は江戸時代「間宿」と呼ばれ、近くの宿場に人が溢れて収容しきれない時に利用されたそうで、お盆の時期突然やってきた僕にもぴったりだと思った。翌日、標高800mある馬籠峠を越え岐阜県に入り、馬籠では藤村記念館などを見学。更に「是より北、木曽路」の碑、そして落合まで歩き、中津川より帰宅した。

* 出発6:00 林道終点6:20 南木曽避難小屋8:20  南木曽山頂往復後出発9:30 南木曽岳登山口10:40 木曽路館12:00

                               記録 久留島 隆史