梓川源流の沢登り
2005年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
山をやる者にとって、身近な存在の梓川。
上高地から横尾、更に槍沢、涸沢へと登山者の列は絶えない。
しかし、その他の支流へロマンを求める者は滅多にいない。
今年は会の夏合宿で横尾にベースキャンプをおいて、一ノ俣谷、二ノ俣谷、徳沢本流岳沢、
更に初心者対象で横尾本谷左俣、右俣を8日間で登る計画を立てた。
一ノ俣谷には近年まで地図に点線が入っていたが、
もう20年以上前から廃道に近い状況ということで、最近これを歩いたという記録は見られない。
下部は滝マークがいくつもあるが旧道は全て高巻いており、
沢登りの対象として、沢に忠実にこれらの滝を越えて行けば素晴らしい遡行になるだろう。
二ノ俣谷は、1つだけ発見した遡行記録と地図から推察すると、
滝もゴルジュもほとんどない平凡な沢のようであるが、距離は長く、のんびり遡行したい沢である。
徳沢にも、かつて上マグサ沢左岸の尾根伝いに道があったようだが、
こちらは、一ノ俣谷より古くに廃道になっている。
下部は平凡な流れだが、岳沢に入ると同時に急になり、蝶ヶ岳まで一気に這い上がる。
途中、一番等高線の込み合う所に羽衣の滝があるが、記録は全く見つからない。
一体何mの滝なのか?10mのしょぼい滝か、圧倒的な200m大滝か、と想像するだけで、胸膨らむ。
横尾本谷は、左俣右俣ともガイドブックに紹介されている割には知名度も低く、
静かな山旅が楽しめそうで、会に入ったばかりの新人にはちょうど良さそうである。
今回の合宿は天気が不安定であったため、二ノ俣谷は登り損ねたが、残りの3本を登ることが出来た。

一ノ俣谷  
2005年08月11日  晴れのち雨
久留島 隆史(28)、牛山 朋来(38)=昭和山岳会

満天の星空の下、横尾を出発。
一ノ俣谷の橋を渡った先で遡行準備をするうちに明るくなる。
右岸につけられた廃道は、3分もしないうちに藪の中に埋もれ、沢に入る。
目の前には、これから目指す常念岳が高く聳え、胸高鳴る。
すぐに、二段の滝であるが、半分埋まっており、滝壺だけが残っている。
しばらく行くと、両岸の壁が高くなり、10m程の滝が現れる。ここから先が連瀑帯となっており、
これらをまとめて七段の滝と言うようである。
 最初の滝は左岸を小さく巻くが、岩がもろくロープ使用。
牛山リードで50mいっぱいの1ピッチ。続く滝を右から越えていき、行き詰まったところで水流を左にジャンプ。
ここはかなり怖く、確保してもらい越える。
いくつか小滝を越すと、目の前にいかにも困難な滝が現れた。
右はハングした絶壁で、左はつるつるのスラブ。
一見越えられそうもないが、左壁に登山道の名残と見られる鉄杭の連打を発見。
久留島リードで取り付く。
鉄杭はひん曲がってる上に何本か抜けた跡がある。
杭の根元で中間支点を取り、抜けているところはフリーで挑むが足のフリクションはほとんどなく、悪い。
短いので一気に越えたが、腕はパンパンに張ってしまった。
その上の滝を左から小さく巻いて、ピッチを切る。これで、核心の七段の滝は終わった。
廃道はここまで右岸から大きく巻いているようである。
とすると、あの杭は、何のために打ったものだろう?
最後の核心と思っていた一ノ俣の滝は、直登不能で左岸から簡単に巻いてしまった。
沢は左に直角に曲がり開ける。
左岸に、山田の滝、常念の滝を迎える。
常念の滝は、水量豊富に天高くから流れ、この沢の最後にして一番美しい滝であった。

ここからは、平凡な河原歩き。
2180mの二俣で東天井への道を分けると水量が減る。
2300m地点の奥の二俣には常念小屋の水源タンクがあり、ここからははっきりした踏み跡を小屋までたどることが出来た。
一ノ俣谷は時々登山道の名残も見られたが、まともに使えるのは2300mから上だけで、
あとは沢の中を歩いた方が楽だし楽しいと思われる。
核心は下部に集中しているが、全体的に明るく傾斜もそこそこあり、特に滝の美しさは見事な、お勧めの沢である。

* 横尾(03:50)→一ノ俣谷(04:50)→一ノ俣の滝上(08:00)→常念の滝(09:00)→2180m二俣(10:40)
→常念小屋着(12:20)→発(13:30)→常念岳(14:30)→蝶ヶ岳(18:00)→横尾(20:20)

徳沢本流・岳沢
2005年08月13日  雨のち晴れ
久留島 隆史 ・牛山 朋来

朝早く起きるが、11日夕方から降り続く雨がまだ止まず待機する。
5時過ぎ、小雨になったので出発。徳沢園で、ようやく雨が上がった。
日大の診療所前から、林道が徳沢本流に向けて続いているようなのでこれをたどる。
壊れた梯子を利用して最初の堰堤を越え、しばらくは踏み跡が続くが、やがてこれも無くなり沢に入る。
水量は多くないが、それでも大雨で増水しているのか流れはとても速い。
倒木が多く、徒渉を繰り返すが、楽ではない。
2つ目の堰堤を右から越え、曲沢を分けるとますます倒木はひどくなり、体力の消耗が激しい。
もうやめて帰ろうかという思いを、どうにかこらえて前に進む。
大沢を分けてからは歩きやすくなったが、予定よりだいぶ時間をオーバーして、上マグサ沢との二俣についた。
岳沢に入ると、今までとは様相が一変して、小滝が連続し始める。
今までの鬱憤を晴らすように、シャワーを浴びながらぐんぐん直登していく。
2150mで再び二俣となり、ここでいよいよ今山行のメインである羽衣の滝が、その姿を現した。
まだ、多少離れてはいるが、70〜80m、白い布が何段にも連なって見える。
1段目、2段目を左から難なく直登し、3段目以降は右の急な草付から登ると、目の前が大きく開け、核心部と思われる場所の下に出た。
ここから見える範囲で、あと50m。
傾斜は寝ているものの、水が岩壁いっぱいに伝わり我々の実力では登れそうもない。
仕方なく、左のルンゼから高巻くことにする。
ルンゼを登るたび、滝の上流が見えてくる。まだまだ、終わりそうにない滝。一体どこまで続くのだろう。
傾斜のやや緩いところを、ブッシュを頼りに右トラバース。なおも、尾根上で、垂直の藪漕ぎをしていく。
2280mの二俣が、足下に見えた。
そこから下の滝が見えなくなり、どうやらここで若干傾斜は落ちているようだが、左俣、右俣ともまだ滝が終わらず、核心の真只中である。
このまま更に高巻き、左俣2300m地点で沢に戻った。
傾斜のだいぶ落ちた滝の上部を登るが、まだスリップは許されず緊張する。
2350mでやっと緊張感から開放され、そのまま急登を藪漕ぎもほとんど無いまま、長塀尾根最上部に詰め上げた。
徳沢は下部の倒木には苦労したが、岳沢に入ってからは稜線まで滝の連続で、爽快である。
核心の羽衣の滝に残置物は一切見当たらず、巻き道にもかすかに動物の踏み跡があるだけであった。

* 横尾(05:25)→徳沢着(06:15)→発(06:45)→曲沢出合(08:10)→大沢出合(09:30)→上マグサ沢出合(11:20)
→羽衣の滝取付(12:00)→羽衣の滝上(14:00)→稜線着(15:20)→発(17:00)→横尾(18:30)

 登山体系にも載っていない沢に行くのは2人とも初めてで、最初は不安があった。
しかし、北アルプスにしては遡行距離が短く、大きなゴルジュも無さそうなので、決行することが出来た。
今回行った沢は、どれもアプローチが短く、沢の長さも手ごろなので、ある程度の技術がある人なら北アルプスの沢登り入門として取り付きやすいと思う。
また、前日の雨で屏風岩が濡れてしまって取り付けないという日も、当日が晴れていればこれらの沢には入れるだろう。
登りついた先は槍、穂高の展望台で、稜線歩きとともに楽しめば、充実した1日が送れるものと思う。