四万川本谷〜清津川セバト沢左俣下降〜西の沢〜魚野側佐武流沢下降〜小ゼン沢(上信越国境稜線)
2003年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
8月3日〜8日 
メンバー:久留島 隆史(昭和山岳会)、荒木 紀之(無所属)
3日(晴れ)

四万温泉より新しく出来たダム沿いの車道と林道を使い、マスミ沢出合の先から入渓する。 11時30分、遡行開始。大魔ヶ沢の先に現れるゴルジュは、水量が豊富なためロープを出して右から巻き気味に突破。今回パートナーの荒木とは、全く初めての山行のため、最初のうちはなるべく多めにロープを出すように心掛けた。今年は全国的に雪解けが遅く、そのため水量も例年より多いようである。

15時30分、イモリ沢出合泊。薪がどれも湿っていて、焚き火の火付けに苦労する。

4日(晴れのち曇り)
6時40分出発。すぐ二俣。この先、ナメとナメ滝の連続となり、傾斜もだんだん増していく。「きれいだね。いい沢だ。」「でも、少し藪っぽいのが残念だな。」などと沢の批評をしているうちに、美瀑にたどり着いた。このときばかりは2人とも話をやめ、滝の見事さにしばし息を呑む。明瞭な踏み跡沿いに、右から高巻く。この上で水量は大幅に減り、上流部の苔むした小滝群と、更に藪漕ぎ2時間程で、12時30分笹平着。ここから、セバト沢を下降。15時、左沢との合流点にて泊。焚き火をするが、途中で大雨が降ってきて中止になる。

5日(曇り時々雨)

昨夜からの雨が朝7時過ぎまで降り続いたため、8時出発。増水しているためゴルジュ帯を大きく高巻くが、下りるのに懸垂2ピッチとなってしまい、時間を食う。右俣との二俣付近は、両岸とも赤茶けた大規模な岩壁帯が続き、沢の水も赤く濁っていて気分があまり良くない。雨が再び降り始め、2人ともただ黙々と下る。13時30分、清津川本流着。ここで荒木が体調不良を訴えるが、まだ平気そうなので様子を見ながら先に進むことにする。15時、西の沢出合の広い河原にタープを張る。夜中には、明日の好天を約束する満天の星たちが微笑んでくれた。心配なのは、荒木の体調だけだ。荒木は先に寝てしまったので、1人酒を飲んでから寝る。

6日(晴れのち雷雨)

5時30分出発。美しい小滝群を、左から右から、自由に登っていく。グシノ沢出合手前で沢は一度傾斜を緩め、ゴルジュから開放されるため、朝日を全身で吸い込むことが出来る。十分休んでから出発。この上が、西の沢の核心となる。10m滝が上下2本連なり、下の滝は難なく直登するが、上の滝がしぶきを撒き散らしながら威圧的に迫る。1段登ってからハーケンを打ち、その上の傾斜の強い部分は草つきを持って慎重に1歩1歩体を持ち上げた。滝の落ち口の残置ハーケンにタイオフして、更に1段上がると終了。今山行唯一のクライミングっぽいところで、楽しめた。

この上もしばらく小滝が連続するが、やがて水量が減りガレをつめていくと二俣につく。左は赤ガレが続き、右は一見藪に埋もれているように見えるが、コルに出るなら右であり、藪に突っ込む。このまま稜線まで藪が続いたらどうしようと不安になりつつ、とげだらけの藪に悲鳴をあげつつ進む。しかし、20分程で雪渓が現れ、藪から開放されたので助かった。再び二俣である。緑濃い佐武流山の稜線が空の青さに映え、その手前は岩壁帯がテラテラと光っている。右俣に入れば、岩壁を避けることが出来るが藪が濃そう。我々はよく観察した上で、左の岩壁帯に突っ込むことにした。

豊富に残る雪渓を詰め、まず第1バットレスに取り付く。ここは、取り付いてすぐのところで1ムーブ微妙なバランスを要するが、後は問題なし。50m1ピッチで抜ける。再び雪渓を詰め、第2バットレスへ。こちらの壁は赤茶けていて一見脆そうだが、取り付いてみるとホールドは豊富で岩もわりあい硬い。ロープを出すこともなく100m程で傾斜も落ち、遠くには苗場の湿原、眼下には支流をたくさん従えた清流清津川という贅沢なロケーションの中、最後はきれいなお花畑の出迎えを受け、13時30分、佐武流山北のコルにでた。

佐武流山往復後、15時、佐武流沢下降に取り掛かるが、このころ遠くで鳴っていた雷がどんどん近づいて、1800m付近から始まる連瀑帯を下るころには激しい雷雨となった。沢の中なら雷も落ちないのではないかと思いながらも、金属を身にまとった体ではそんな確信はなく、ただ落ちないでくれとだけ祈りつつテン場を探しながら下降を続ける。そして、夕闇迫る18時過ぎ、1500m付近に快適とはいえないが安全なスペースを見つけ、タープを張る。2人とも疲れ切っていたので、この日はすぐ寝てしまった。

7日(曇りのち晴れ)

5時30分出発。昨夜の雨で増水しているが、この沢の核心は終わっている。傾斜のゆるくなった沢をただ黙々と下り、8時魚野川本流に降り立つ。大河である魚野川も、上流にダムがあるため水量が少なく、難なく徒渉する。上を走る登山道へは踏み跡をたどるが、途中で不明瞭になり、潅木をつかみながら強引にあがる。素晴らしく快適な登山道を1時間で渋沢ダム。2人とも、ついにここまできたという思いで感慨深く、いつまでこの大河を見ていても飽き足りない。

11時、魚野川の遡行を開始する。下部ゴルジュでは、ここまで風邪気味のためなるべく水につからないようにしていた荒木も、仕方なく泳ぐ。ただ、泳ぎや徒渉は荒木のほうが経験が多く、教わるところが多かった。15時、黒沢出合泊。今日は最後の夜で盛大にやるつもりだったが、また雨に邪魔される。

8日(霧雨)

いよいよ、今日魚野川を遡行すれば終わりというところまできたが、ラジオは大型台風の接近と、本日中の本州上陸を告げている。朝から雨がぱらぱら降っており、本降りになるのも時間の問題のようである。残念だが、早々にエスケープすることに決めた。5時30分出発。ナメがこれでもかと言わんばかりに続き、その中に5つほど小滝をかける。申し分ない光景にはしゃぐが、朝一のへつりに失敗して「どぼん」した荒木は、寒くてそれどころではなさそうだ。7時30分、本流を離れ、小ゼン沢からエスケープを開始する。しかし、その直後最初に出会う滝で、今度は落ちてはいけない滝の落ち口から荒木が落ちる。場所はなんでもない巻き道の途中。すぐ後ろで一緒に滝を巻いていたはずの荒木が、ずいぶん遅れて滝の中から現れたから驚いた。たまたま3mくらい落ちただけでバンドか何かで止まり、きり傷程度で済んだが、気の緩みは禁物である。

小ゼン沢自体は、簡単な小滝の集合体みたいなもので、藪漕ぎもなく、すぐ稜線に出られるのはうれしい。

11時、登山道着。ここから六合村へ降りるが、急な登山道で何度も転ぶ。降りてからの林道も長く、花敷温泉に下山したのは、15時過ぎだった。

天気にはあまり恵まれなかったが、その分有名な魚野川でさえ誰とも会うことなく、6日間自分たちの山行を楽しむことが出来た。シンプルな装備で、沢から沢へと縦走するスタイルは好きで、これからも続けていきたいと思っている。なお、今回、西の沢と佐武流沢はほとんど資料がなくポイントと思っていたが、西の沢で残置ハーケンを1枚、佐武流沢源頭で赤布を2枚発見したので驚いた。