丹後山〜巻機山
2013年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバー:西野(記録)、久留島、錦織、佐野
日程:2013年5月3〜6日

5月3日:
三国川ダム上6:30…十字峡7:25…栃ノ木橋8:45…12:00ジャコの峰…13:20シシ岩…14:30丹後山避難小屋
5月4日
丹後山避難小屋7:20…越後沢山9:00…本谷山11:00…小穂口の頭11:30…下津川山13:50…下津川山と小沢岳のコル14:30
5月5日
コル6:05…小沢岳6:30…三ツ石山8:30…長松山(1834mピーク)11:20…牛ヶ岳13:30(13:45発)…巻機山14:00…巻機山避難小屋付近14:30
5月6日
避難小屋付近6:30…にせ巻機山6:50…桜坂駐車場9:30

昨年の利根川本谷遡行のとき、丹後山で見た「巻機山」への道標。そうか、繋がっているんだ、繋いで歩いてみたい、と思っていた。豊富な残雪を利用して奥利根の尾根を歩き通す計画をたて、「渋いもの好き」の賛同者を得て山行が実現した。

5月3日 前夜、六日町駅に集合。駅の一階の待合室が利用でき、快適な一夜を過ごせた。朝6時にタクシーに乗り、登山口に向かう。残雪のため十字峡まではいけず、三国川ダムの上からのスタートとなった。
十字峡から先、栃の木橋までは林道がほぼ完全に雪に埋れていた。ときどきトラバースで緊張箇所があったが問題なく歩けた。栃の木橋から丹後山西尾根登山道に取り付く。いきなり急な登りに息が上がる。二合目あたりから完全な雪山となった。ガスで視界はよくない。先行者の新しいトレースが心強い。五合目あたりからは雪がやや深くなってきて、油断すると膝下くらいまで潜る。主稜線に出たとこでだだっ広い広場になり、視界がきかないこともあって一瞬戸惑うが、無事に避難小屋にたどり着けた。この日、私たちも含め5パーティーが小屋に泊まった。とりあえず、入山祝いの宴会。なぜか、持ってきた酒の半分くらいを飲み干してしまった。

5月4日 5時起床。晴れているが風が強く寒い。空身で丹後山を往復してからスタートした。前日まで積雪があり、トレースがないなかを進めるか…と思ったが、ずいぶんと足の速い先行パーティーがいて、ずっとトレースがついている。すごく悔しい。小屋にいたのはみんな尾瀬方面だと思い込んで油断した。もう1時間早く出発すればよかった。トレースがあるのとないのとではきついけど楽しさが違う。
越後沢山までは広々とした尾根。薮っぽい小ピークのいくつかは巻きながら進む。山頂直下はやや急な登りとなるが、ひとがんばりで細長く伸びた越後沢山の山頂だ。基本的にこの稜線のピークには道標、山名板などがない。ちょっと寂しい。緩やかなアップダウンを繰り返しながら本谷山へ。本谷山から小穂口の頭までは、少し岩場っぽいが、それほど悪くない。小穂口の頭から眺める下津川山がとても遠い。今日は小沢岳の先のコルまで行く予定だが、そこにこだわったら夕方になってしまうかも。とりあえず14時前後で、泊まれそうなところがあったらそこにしよう、と決める。
 多少のアップダウンはあるものの、緩やかに、でもひたすらにずうっと登りが続く。前日の疲れもあり、だんだんペースが落ちて行くのが分かる。それでもなんとか下津川山に到着。なぜか三角点が出ていた。三角点からやや下ったところに広場があり、そこに幕を…と思ったが、錦織が下津川山と小沢岳の間のコルまで行ったほうがいいのではないかと提案。行ってみたら大正解、小さな雪庇の裏が無風快適なテン場となった。

5月5日 4時起床。夜明け前はガスっていたが、出発する頃にはやや雲が多いものの、視界がよくなった。急な登りを一気に詰めて、あっと言う間に標高1946mの小沢岳へ。ここから、標高1586mの三つ石山までは、小さなアップダウンを繰り返しながらどんどん標高を下げて行く。朝の早いうちは、少しガスっていて、広い尾根はトレースがなかったらちょっと嫌だなあ…と思う。しかしほどなく青空となる。気温が高いのか、朝9時前ごろからすでに雪がグサグサとする。
三ツ石山から先は、標高1967mの巻機山に向けて、標高を少しずつ上げていく。そして少しずつ、埋もれていた笹薮が顔を出すようになってきた。1681mピークへの登りは完全に笹が出ていた。薮をこぐほどではないのだが、油断すると滑りそうで不安だ。しかもかなりの急登で息が上がる。その後も急な登りは続く。ゆっくりと歩く佐野、錦織、西野の遥か彼方を、ハイテンションで駆け上がっていく久留島が若過ぎる。1834mピーク(永松山)を過ぎると、傾斜は緩くなるが、登りであることには変わりない。ゆるく、長く、辛い登り。登り切った広いピークが牛ヶ岳。とうとうここまでやって来た。歩いて来た稜線がずらっと見渡せる。遥か彼方に丹後山、そして山頂から伸びる西尾根。あんなところから歩いて来たんだ、長かった。本当によく頑張った。みんなの笑顔がこぼれる。
あとはたくさんの人のトレースをたどり巻機山へ。どうしてこの山には道標がないんだろう。山頂に道標はないのに、なぜ9合目(ニセ巻機山)は道標があるのだ。…と首をかしげつつ広い斜面を下る。避難小屋は埋まっていたが、その近くとおぼしきところに、前日に使われたらしいテン場の跡があったので、有り難く使わせてもらう。

5月6日。 4時30分起床。この日は一般登山道を通って清水の集落まで下るだけ。
はじめは山々の景色を、その後はブナの林を楽しみながらサクサクと下山。これなら2時間ぐらいで下りられてしまうのでは…と思っていたら、最後にやってしまった。西野の独り道迷い。
それでもなんとか全員で桜坂に集合でき、桜坂からタクシーに乗って六日町へ。駅近くに新しくできた日帰り温泉施設「湯らりあ」で4日間の汗を流し、近所の蕎麦処「萬成庵」で打ち上げ。巻機山にスキーにいらしていた樽木さん、中島さんとも合流でき(中島さんは私たちの顔を見てすぐ帰宅されたが)、至福の一時を過ごしたのだった。

天気に恵まれ、先輩方の力添えもあり、なんとか無事に山行ができたことに感謝。長くたおやかな、すばらしい雪稜を満喫した4日間となった。まだまだ楽しめそうなこの山域、来年はどこへどのように足を運ぼうかと、地形図を見ながらニヤニヤしている。

●最終日の西野道迷いの顛末。
最後の急斜面で3人からひどく遅れをとり、ひとり心許なく歩いていたところ、数日前の薄い踏み跡のほうに入り込んでしまった。3人の姿が全く見えないことに焦りながら(当たり前)踏み跡を小走りにたどり、桜坂の駐車場に到着したのが8:50。だが誰もいない。「皆が先に清水のバス停に行ってしまった!」と半泣きで車道を駆け下りたが、全然追いつかない。…さすがに途中でそれはないだろうと気づき、立ち止まって携帯を出したところ、電話がかかってきた。佐野さんからだった。登山道の途中で私がくるのを待っていたが全然来ないので、途中で怪我をしていると思って、久留島が登り返していたらしい。とりあえずつながってよかった。3人は登山道を下り、私は車道を登り返し、それぞれ桜坂に向かう。駐車場で再会でき、心底ほっとした。
下山直後は「踏み跡だってちゃんとあった、桜坂まで行けた、道迷いじゃない」と思っていた。しかし、冷静に考え直せば、低山などでありがちな道迷い遭難の典型である「ひとりではぐれた→明らかに登山道と違う薄い踏み跡を辿った→途中で道がなくなったり崖になる→無理に下りようとして滑落、あるいは現在地を完全に見失う」と全く変わらない状況であることが分かる。
消耗している状態で「(自分にとっては)明らかに道があるのに、上に登り返す」決断をするのは、精神的に難しいと感じる。しかしそれでも「登り返す」ことが、最悪の展開を防ぐ唯一の手段なのだと、今は思う。