北鎌尾根
2011年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバー:結城、植田

日程:2011年4月29日〜5月3日

今回の山行は、テントはとばされる、ルートは間違える等、反省点が多く、決して褒められる内容ではなかった。
全装備を担いでの連日の長時間行動と、そして毎日、毎回今後(今)どうするか”という課題を、常に突きつけられているような数日だった。
今年の1月に入会したばかりのU君にしてみれば、初めての雪洞作りと雪洞泊、初めての視界不良の中での下山、初めての急傾斜の藪こぎ、初めての徒渡(それもかなりの急流)で、くたくただったのではなかろうか。
ベースを張り、連日夜はテントで宴会といったある種の“お気楽さ”からは、ほど遠い山行だった。彼は本当によくがんばったと思う。
反省点は多かったが、唯一褒められた事は、ツェルトを持っていた事である。いつも習慣で持ち歩いているが、これが無かったら、雪洞泊はもっとつらい事になっていただろう。

4/29 晴れのち曇り、吹雪
上高地(6:00)〜横尾(9:00)〜水俣乗越(15:00)〜北鎌沢出合(17:00)
朝6時に上高地をスタートするが、日があがった9時ころの横尾でも、気温は1度しかない。山の状況は、例年より一月は遅れているようだ。
槍沢から、水俣乗越へあがる夏道には、結構な量の新雪が積もっているのが見えたため、とても取り付く気になれず、右手の尾根状の雪面をラッセルして稜線まであがった。横尾までは晴れていたが、槍沢に入ったあたりから吹雪で、風も強い。
水俣乗越からは、天上沢を下降するが、新雪で腰まで潜る。雪崩が怖いので、慎重に様子を見ながら、ゆっくり後ろ向きに降りた。

4/30 晴れのち雨、雷
北鎌沢出合(5:00)〜独標のコル(14:00)
天気は晴れているが、風が強い。翌日は天気が崩れるとの予報だったため、出来れば今日中に槍を越えたい。しかし、トレースもないため、時間的に難しいだろうとしばし考えていたが、とりあえず北鎌のコルまで上がってどうするか判断することにした。
北鎌のコルに3時間ほどで上がり、天気もまあまあなので、そのまま進むことにする。特に悪場は無いが、先行者のトレースがないため、思いのほか時間がかかる。場所によっては、膝下くらいのラッセルだろうか。
独標のコルに14:00頃に着くが、突然ばらばらと、ひょうが降ってきた。そこに何の前触れもなく、カメラのフラッシュをたいたような閃光が走った。”まさか雷!”と思った瞬間、すぐ隣で何とも形容しがたい大音響の金属音が響いた。引き続き2発目、3発目。雷はかなり近い。すぐ行動を中止し、テントを張ることにした。
強風下のテント設営は、慣れているはずだったが、ここで痛恨のミス。ほんの一瞬目を離した隙に、強風にテントを持っていかれた。振り返ったときには、あったはずのテントが見事に消えていた。飛ばされたところすら見れなかった。その間1秒もなかっただろう。
悪天、強風下にこのままでいれば、じき低体温症で動けなくなる。雷鳴轟くなか、下山することも出来ない。幸いまだ日没まで3時間以上あったので、この日は雪洞を掘って、何とか凌いだ。

5/1 曇りで、視界不良
独標のコル(5:00)〜千丈沢上部(13:00)
視界は悪いが、風は昨日より弱い。予報では今日は天気が崩れる日であり、残念ながら登ることはあきらめ、北鎌沢へ戻ることにした。
視界が悪い時の下山は難しい。上部で左右に一度ずれれば、降りるに従って誤差は広がってくる。慎重に昨日つけた自分達のトレースを追うが、雨のせいで既に消えかかっている。雪が消え、岩が露出しているところもあり、わずか昨日の事なのに、一部風景が変わっている。
北を目指し尾根上を進み、行き詰ると右左とルートを探し、それでも駄目な場合は、登りかえして再度ルートを探す、という繰り返しで降りる。
北鎌尾根なので、尾根筋を外さないよう北方向を目指せばいいと思いこんでいたが、独標から北鎌のコルへは、途中で北東方向へ向きを変えるポイントがある。このポイントでは、北北西へ向かえば千丈、北東へ向かえば天上沢へのルートとなる。恐らくこのあたりで間違えたのだろうと思うが、最終的には千丈沢に降りてしまった。翌日千天出合へ向かう途中、左岸から沢が1本入っているのが見えたので、多分下降したのは天狗前沢だと思われる。幸か不幸か、千丈へ降りたのか、もしくは千丈から登ったのかと思われる古いトレースが残っており、これを追った結果でもある。
天狗前沢の出合は、雪は少なかったものの、何とか2人が寝れる大きさの雪洞を掘った。雪洞は風は避けられるが、濡れた物は乾かない。さすがに二晩目となると、二人とも全身ずぶ濡れである。

5/2 晴れ
幕営地(5:00)〜千天出合(7:00)〜湯俣(18:00)
当初の予定では、この日は上高地に戻る日であったが、千丈沢に降りてしまった以上、1日で戻ることは無理である。
食糧も残り少ないので、ここから1日で辿りつける湯俣の山小屋を目指すことにし、そのまま千丈沢を下降する。
約2時間で、千天出合着。ここから、きれぎれのトレースと赤布を頼りに、下降する。
途中3回徒渡したが、最初の1回は飛び石伝いで濡れず済んだが、その後の2回は、過去沢登りを目的として行った山行でも経験した事のないような急流を、股下まで水に浸かって徒渡した。雨が降ったせいで水量が多かったようだ。最後の徒渡は、U君がかなり不安そうだったので、ロープを出した。
途中、湯俣から登ってきたN大山岳部の3人組と会い、ルートの詳細を聞いたところ、親切にも遡行図をくれた。感謝!。
その後赤布を頼りに進み、何とか日没ぎりぎりの18時に湯俣に着いた。日没との競争だったため、千天の出合からは、休み無しで行動しっぱなしである。下山予定日だったため、小屋で無線電話を借り、緊急連絡所へ電話を入れた。
 この日は冬季小屋に泊めてもらい、薪ストーブで濡れものを乾かした。快適な一夜だった。

5/3
濡れものも乾き、七倉目指して歩くだけなので、6時に出発する。ダムについて、タクシーに乗車する。やっと人里に帰ってこれた事に感謝する。
大町駅に向かうタクシーの途中で、携帯が圏内になったので、再度緊急連絡所と代表に連絡を入れた。運転手さんが気を使ってくれて、松本駅に向かう電車の5分前に大町駅に着き、そのまま電車に乗った。

以上