明星山P6南壁 フリースピリッツ
2020年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバーYK、DS
期間:2020年11月14〜15日

山行タイム:駐車場(0:15)フリースピリッツ取り付き(8:30)南山稜終了点(4:00※迷った)駐車場

11/14(土)、晴れ
7:00、八王子集合

11:00、道の駅小谷
食事処「鬼の厨」で昼飯。日帰り入浴もできる。

12:00、ヒスイ峡・明星山大岸壁展望台駐車場
前夜に少し雨が降ったため所々日陰の地面が濡れているが、南面の岩は概ね乾いていた。双眼鏡を持って各ルートの取り付きと下降口の鉄管周辺を偵察しに向かった。
取り付きへはまず駐車場前にある売店「翡翠の宿(休業中)」の左手にある大木裏の踏み跡を数分下って小滝川へ降り立つ。
渡渉は下流へ少し下り、露岩の間に張られたフィックスロープを頼りにチロリアンブリッジ風に渡る。

渡渉点

左岸側のペツルボルトが1本抜けていて若干不安があったが一応大丈夫だった。渡渉はよく探せば別の場所から飛び石でも行けそうで、水量は11月にもなると少なく浅いので気合を入れればどこからでも渡れそうだ。 フリースピリッツの取り付きは渡渉点から僅かに下った辺り。目印はハング帯の下にある古びたリングボルト1本とその背面にピンクテープ。また河原には岩小屋がありその裏側でもある。

14:00、偵察終了
この日は展望台から見たところ、左岩稜に4人、クイーンズウェイに2人取り付いていた。標高差440mの南壁はやはり圧巻である。対岸から写真を撮るのが1番見栄えの良い写真になるだろう。

フリスピ取り付きにある目印のリングボルトから見上げる

小滝川から下部全景

初日偵察時に車道からの南壁全景

泊まる場所だが、時期が遅かったせいか以前来た時使えた駐車場のトイレは入口が封鎖されており、キャンプ場の炊事場も水が止められている。川の水でも良かったが、時間があったので最寄りのコンビニ(片道約20km)まで水を買いに行った。
ヒスイ峡キャンプ場の駐車場へ移動しテント設営。ここには仮設トイレがあった。

19:00、就寝

11/15(日)、無風快晴

5:00、起床
展望台駐車場へ移動し支度。

6:15、ヒスイ峡・明星山大岸壁展望台駐車場
日の出に合わせて出発。

6:30、フリースピリッツ取り付き
最初はツルベでDSから登攀開始。先行者はいなかったがすぐに後続パーティは来た。この日は3パーティ取り付いていた。

1-3P目、V、60m。小垂壁を越えつつバンドを左上。
初見でRF核心のルートなので、ルートを探しながら終了点らしき支点があれば切るというかなり慎重なスタンスで3Pかけて登った。ピンは殆どないが灌木はある。短く切ったが実際はトポ通り2Pで十分行けた。


2P目、バンドを左上

4P目、5.7、30m。スラブから真上のフレーク。
YKリードで登り始めたが、フレークの手前で行き詰まったためバトンタッチ。ここからは基本的にDSリードで登っていくことになる。


4P目、行き詰まったところ

5P目、5.7、30m。クラックからスラブを下りトラバース、ランぺを右上。
下るポイントを見逃し、登りすぎて岩角に太いスリングが巻かれた間違えてきた人用の懸垂残置のような物があるところまで来てしまったため慎重にクライムダウン。下りトラバースに入る箇所の真上に古いリングボルトが連打されていたが、そこは今は記録を見ない柴田ルートという別ルート。それを目印にしてそこから右にトラバースが正当。

6P目、5.9、30m。垂壁下のクラックを左上し、チムニー、ウメボシ岩を越え、右に下りトラバース。
下部核心と言われているウメボシ岩の通過。いまいち梅干し感はないがウメボシ岩の左側から越えて右側へ下降していく。プアプロテクションの中、この下りが非常に怖かった。長いお助け紐は残置してあったが、ここはフォローも怖いピッチだ。
ビレイ中にだんだん壁に陽が差してくるようになり、気温10℃くらいしかないのに暑くて上着を脱いだ。


6P目、垂壁下のクラック左上

6P目、ウメボシ岩登攀中

7P目、5.8、20m。垂壁からカンテを右に越えやさしいフェース。
ビレイポイントから右のカンテへのラインは分かりやすい。


7P目、垂壁からカンテを越える

8P目、5.8、30m。ハングの切れ目凹角から緩傾斜のフェース。

9P目、5.8、40m。ハング帯左のカンテ裏のクラックから越し、緩傾斜帯へ。
緩傾斜帯は浮石や砂礫が溜まっておりロープで落石を誘発してしまう。

10P目、U、40m。ガレ場から一段上のテラスへ。
YKリード。中央バンドの横断は落石しやすいので注意が必要。クイーンズウェイ側に寄りすぎたため少し戻ってビレイポイントを移した。ムラヤママイマイというカタツムリの殻がたくさんあった。


10P目、中央バンド帯

10P目、ビレイポイントからへの字ハングを見上げる

11P目、W、40m。右上ランペ。
への字ハングが真上に見える。ハングを避けるように不明瞭な緩傾斜のスラブを右上していく。


11P目、右上ランペ

12P目、5.7、30m。カンテ右の垂壁からバンドを右上。
珍しくペツルボルトが続いたピッチ。フリースピリッツの中では最も技術的核心だった。明らかに5.7以上のグレード感でルートを間違えたのではないかと思った。あまり頑張りすぎるとパンプしてしまうし時間も押していたので一箇所スリングアブミで突破してしまった。若干心残りではある。このピッチは右からもW+でJADEやマニュフェストに合流するラインからも登れるようだ。ビレイポイントも懸垂リングがついてしっかり整備されていた。

13P目、W、20m。バンドをトラバース。
パノラマトラバースと呼ばれるライン。絶壁から体を乗り出してトラバースしていく高度感はなかなかのもの。弱点を見つけてフリーで突破していくライン取りに初登者の執念感じた。


13P目、パノラマトラバース

14P目、5.8、40m。凹状の垂壁から凹角を越え、緩傾斜帯へ。
細かいホールド垂壁を越えれば実質岩登りは終了。上部核心と言われていたが、ここはそこまで難しさを感じなかった。


14P目、凹状の垂壁

15-16P目、U、80m。緩傾斜帯のブッシュ混じりの岩場を左上。南山稜の終了点へ。やっとクライミングシューズから解放。アルパイン用に多少緩めの靴ではあっても流石にこれだけ長時間履いてると足先が痛くなる。

15:00、終了点
南山稜に出たが、最後の2Pで上に登りすぎたかもしれない。ロープ長から考えても正規はおそらくもっと左にトラバース気味に抜けるべきだったのだと思う。目印の松の木とやらも其処彼処に似たような松の木が生えておりいまいち分からず、判然としない下への踏み跡にも自信が持てない。上に薄らと踏み跡があったため更に2P上に登って南壁の頭方面の様子を見てみるが、途中で消えてしまった。もっと上に抜けるルートの踏み跡なのかと推測したが確信は持てない。
仕方がないので灌木を繋いで西面側へ懸垂下降で根気よく降りることに。そうこうしていると17時には日没で暗闇の中へ。久しぶりの残業スタートだ。
綺麗な星空の元、明星山にはヘッドライト2つのみ。後続2パーティはパノラマトラバースあたりから離れて見えなくなったが恐らく下降路へ上手く抜けたのだろう。後から思うに、おそらく終了点からそのまま南山稜をクライムダウンして松の木を目指し西面にトラバースするのが正解だったのだと思う。
懸垂下降5回ほど繰り返しただろうか。1回ロープがスタックして登り返してタイムロスしたが、漸くトラロープがある踏み跡に合流できた。正規の踏み跡には我々のような残業になった人のためと言わんばかりに反射テープやピンクテープが続いており助けられた。
工事道に出たらあとは鉄菅の橋を渡って古いロープを使い懸垂下降するだけ。漸く対岸へ戻ってきてホッとした。


鉄菅から懸垂下降

19:00、駐車場下山
駐車場には当然自分達の車のみ。残念ながら道の駅小谷の日帰り入浴も営業時間終了していたのでそのまま帰京することにした。寄り道しなかったおかげでなんとか終電前に帰宅することができた。

フリースピリッツは複雑なライン取りでRFが難しい上にルートが交錯していて残置物にも惑わされやすい。下手に導かれると難しいルートに入ってしまう可能性もあるため、慎重にオブザベーションしながら登らなくてはならず初見では時間がかかった。ルートを知っているのと知っていないのでは登攀時間にかなり大きな差が出てくるだろう。
また、岩が脆い箇所も多く緩傾斜帯には浮石が溜まっており落石にかなり注意を払う必要があるため、後続パーティがいる緊張感でだいぶ神経を使った。
ビレイポイントは基本的にペツルボルト1本とリングボルトやハーケンがいくつか補強で打ってある構成が殆どだった。

雨天延期が続く中、今シーズンラストチャンスと思って臨んだ明星山。強引だったが漸く好天を掴むことができた。チャンスは引き寄せないとやってこないんだと思わされた山行だった。反省点は色々あったが、何はともあれ無事に今シーズン無雪期の目標ルートを全て登れて良かった。いつも同行してくれるパートナーに感謝したい。
明星山は他にも興味深いルートがいくつもある。マニュフェストやクイーンズウェイにはまたいつかチャレンジしてみたい。

〜装備について〜
ギア類はパーティで50mダブルロープ2本、カム(♯0.5-3)1セット、ヌンチャク10本、60cmスリング8本、120cmスリング2本、ノーマルカラビナ8個、環付きカラビナ4個、ATCを持参した。
カムは結局殆ど使わなかったが、あるとないでは安心感が違うので1セットは必要だと思った。
ルートが屈曲する場面が多くロープが重くなりがちなので60mロープにしてもそこまでメリットはない気がした。
ランニングはピン以外に灌木を使うことが多いのでスリングとノーマルカラビナは多めに持参すると良い。

小型トランシーバーとハイドレーションはとても便利だった。