槍ヶ岳 北鎌尾根&西稜
2020年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバーYK, DS
期間:令和2年9月20日〜22日

9/20、上高地(4:40)水俣乗越(1:25)北鎌沢出合C1
9/21、北鎌沢出合(1:55)北鎌のコル(1:30)独標(2:00)北鎌平(0:55)槍ヶ岳(0:25)殺生ヒュッテC2 9/22、殺生ヒュッテ(0:35)登山道から小槍への下降点(0:50)大テラス(1:55)小槍(1:00)殺生ヒュッテ(4:40)上高地

8月末から週末に計画すること早3回。漸く休みと天気の周期が噛み合った4連休。密必至もやむなし。元々北鎌尾根と槍ヶ岳西稜は別日程で行くつもりでいたがチャンスが限られてしまったため、リーダーに無理を言ってロープやカムは全て持つという事で1つの計画に纏めて行くことにした。

9/19(土)

20:00、八王子集合
23:50、沢渡バスターミナル第三駐車場
流石連休、駐車場は車で溢れかえっていた。BTの入口が封鎖されていたため駐車場で車中泊。あとで気付いたことだがギリギリ日付を跨がず駐車場に入ったため駐車料金をしっかり1日分多く取られてしまった。

9/20(日)、くもり後晴れ(10:30?)

5:00、起床
沢渡からバス利用で上高地へ。
6:35、上高地BT
人、人、人。観光・登山含めいつものような盛況ぶり。
7:20、明神館
いつにも増して道沿いにニホンザルがたくさん歩いている。猿と並走しながら歩く。
8:00-8:10、徳沢園
8:55-9:10、横尾山荘
槍見河原から初めて槍が見える。
10:10-10:25、槍沢ロッジ
10:45、ババ平
11:05-11:15、大曲
12:05-12:20、水俣乗越
登山道から外れ水俣乗越から北鎌沢出合まで下る。踏み跡は明瞭だがザレザレガラガラで、人が行列をなしているので落石に非常に気を使う。

13:45、北鎌沢出合
GWの記憶のせいか北鎌沢出合は水が流れている印象だったが今回は流れていなかった。水俣乗越側まで戻って水を汲むには少し遠い上、水が白く濁っていた為、翌日の水確保のことも考え北鎌沢を5分ほど空身で駆け登った二俣の手前で確保した。
水を確保して帰ってくると出合に泊まる人々から片っ端から水場について問い合わせを受けた。
出合にはざっと20張以上のテントが張ってある。自分達が到着後も続々と人が来てあっという間にテント村と化した。薪木が結構あるので焚火をしてるパーティもいた。

9/21(月)、無風快晴

3:00、起床
起床して外を見渡すと星空の元、既に北鎌沢右俣上部まで登っている明かりがいくつか見える。早出過ぎて驚いた。

4:05、北鎌沢出合発
コル付近で明るくなるよう調整して出発。右俣を詰めていく。水は途中伏流してなくなることもあったが2300m付近までは出ていた。結果論だが、ここまで上部で水が確保できるならば北鎌のコルまで前日に上がっておいても良かった。
ルートは北鎌沢右俣上部で小さな二俣がいくつか出てくるが、基本的に地図通り自然に右に右に上がっていけば良い。しかしコル直下の二俣だけは左に行った方がコルに直接上がれる。ただ間違えたところでそこまで労力は変わらない。

6:00-6:10、北鎌のコル(P7・8のコル)
2人用テント2-3張くらい張れる小広いスペースがある。漸く念願の夏の北鎌尾根に取り付けて嬉しい。

6:55-7:05、天狗の腰掛け2749m(P8)
山頂に結構しっかりした量の行動食や歯ブラシの忘れ物があった。あららという感じだが荷物も増やしたくないしコロナもあるしでココアパウダーと粉末ミルクだけ回収して後程頂いた。

7:30、独標のコル(P9・10のコル)
風避け用に岩積みされた壁付きの立派なビバークスペースがあった。
独標は直登ラインを探ってみたがいまいちはっきりしたラインはわからなかった。登ろうと思えば色々なところから登れそうである。今回は素直に踏み跡通り巻く。一箇所だけ飛び出た岩を千丈沢側に少し身体を乗り出す部分で注意が必要であったが、それ以外は比較的歩きやすい。抜け口にハーケンが打ってあった。このトラバースは冬はすっぱり切れ落ちた硬い斜面になっていて結構緊張して一歩一歩進んだ記憶がある。

7:50、独標2899m(P10)
遂に峰々を連ねた大槍がお出まし。ここからは小岩峰が多すぎてどこがP○なのか考えるのを諦めた。

北鎌尾根は基本尾根通しに歩き、巻く時は小さく千丈沢を巻くことを意識して歩くとベター。ただたまに天上沢側の方が歩きやすい時もあるのが難しいところ。数々のはっきりした巻き道の踏み跡があるのでしっかり地形を見てその場その場で判断する必要がある。

8:45-8:55、小ピーク
9:30-9:40、小ピーク
この日の北鎌尾根は前も後も人がたくさんいる。その中でも一際目立っていたのが10人くらいの団体パーティ。リーダーらしき年配の方がずっとメンバーに怒号を飛ばしている。バカやろう!ロープを持つな!さっさと歩け!死ね!こっちへこい!等々。今時珍しい指導?のパーティで失笑してしまった。

10:10-10:20、北鎌平(P15の先)
水は無いが天候が良ければビバーク適地。大人数用のテントでも張れるスペースがある。大槍小槍が目の前に聳え立ちロケーションは最高。間近の硫黄尾根と遠くの前穂北尾根が印象的だ。
ここから約200mの最後の岩稜登り。
山頂直下の有名なチムニー。記念に一応登ってみた。ハーケンがたくさん乱打されている。チムニーは通らずとも登れるのでYKはチムニーの右側からサクッと登っていた。

11:15、槍ヶ岳山頂3180m
祠の裏から登頂。握手を交わす。
山頂は写真撮影で大混雑、上裸で逆立ちしている人がいたりで大賑わい。自分達もピーク写真だけ撮り、急いでテン場確保へ向かった。翌日登る小槍登攀中のパーティがよく見えた。

11:30、槍ヶ岳山荘
この時間で既に肩の小屋のテン場は空きなし。ショック死。思わず、そんな殺生な...と呟いてしまった。仕方が無いので殺生ヒュッテまで下ることに。ただ、北鎌で時間がかかってしまったら最悪ババ平まで下らないといけないかもと想定していたので一応想定の中ではマシな方であった。

ここでYKと二手に別れる。DSは西稜の取り付き偵察、YKは殺生ヒュッテのテン場確保へ。

事前の下調べによると西稜の取り付き方は2通りあり、
@槍ヶ岳の上り登山道を少し登り、1つ目の梯子の手前のガレガレの悪いルンゼを下降して大テラスまでバンドをトラバース
A槍ヶ岳山荘脇のヘリポート裏から下降してバンドをトラバース
とのことだったので両方把握するため、行きはAから取り付きに向かい、帰りは@から戻るルートで偵察することにした。
結果は@がベストと判断。落石等のリスクはどちらもそこまで変わらずAの方はRFが必要で距離もあり、冬に使うなら@の方が分かりやすいだろうということでこちらを翌日使うことにした。
大テラス付近はスラブ状になっており、大テラスへルンゼから早くにトラバースを開始してしまうと行き詰まる。記録を見てもトラバースでロープを出しているパーティは多いようだ。ルンゼを大テラス下くらいの高さまで下って巻き上がるように登った方が楽に取り付ける。

偵察の際、取り付きの大テラスに着くと小槍に取り付こうとしている2人組がおり声をかけられた。どうやら登攀準備中に1P目中央のフレークが自然落石し足に当たって骨折してしまったらしい。登山道まで誘導してほしいとの依頼を受けたので先導して槍ヶ岳山荘まで一緒に下りた。怪我をしていないパートナーを翌日一緒に西稜に連れて行ってくれないかと依頼されたが流石にお断りさせて頂いた。
落石は恐ろしい。確かに偵察中、槍ヶ岳西稜を登攀中のパーティがラクッ!ラクッ!と何度も叫んでいるのが聞こえていた。明日は我身かもしれないと思うと緊張した。

13:00、殺生ヒュッテ
偵察終了。小屋でYKの計らいでビールとコーラを買ってきてくれたので北鎌登頂に乾杯。疲れていたので心地よい気候の中昼寝をしたり地図を見たりしてゆっくり過ごした。
夜遅くまで周りのテント住人の足音や話し声がうるさかった。

9/22(火)、快晴、北風が非常に寒い、(上高地20℃)

3:30、起床
5:00、殺生ヒュッテ
ルンゼ下降で丁度明るくなるよう時間調整して出発。
5:30、槍ヶ岳山荘
5:40-5:45、登山道下降点
登攀具を身に付ける。前日偵察の落石必至のルンゼを下る。池ノ谷ガリーに似ているがそれより踏み跡は薄い。下降中1回YKの落石が直撃しそうになったが、既の所で避けることができた。昨日のこともあったので肝を冷やした。

6:35、大テラス
先行2人パーティがいたので1P登り終わるまで待って登攀開始。小槍は北面寄りに向いた壁なので朝は日陰でしかもこの日は北風が強く非常に寒い。手袋をして登ろうか迷うくらい岩も冷たい。

以下3P目まではDSリード、4P目はYKリード。グレードは体感。
1P目、スラブ、V、30m。昨日剥がれたところの左側を行く。岩が脆く小ハングの乗越が悪かった。トポだとA1。寒さと相まって結構難しかった。

2P目、フェース、W+、20m。くの字ジェードル下まで。ビレイポイントはハーケン2本とカム。

3P目、くの字ジェードル、X、25m。西稜の核心部のオフィズス。トポだとA2でハーケン多数。最初はステミングで登っていくが、次第に左側のスタンスがなくなりジャミングとレイバックを交えて登っていく。ビレイポイントはハーケン3本とカム。

4P目、V、40m。頭上に覆い被さった巨岩がある3P目終了点から右に壁を乗っ越してそのまま真っ直ぐ小槍山頂へ。

8:30、小槍登頂3030m(全4P)
山頂は岩積みで狭い。流石にいい歳した男2人で小槍の上でアルペン踊りをするわけにもいかないのでやらなかったが、というよりアルペン踊りがどんな踊りなのかすら知らないが、北鎌を登ってる最中からずっとアルプス一万尺の民謡が頭の中で無限ループしていたのが漸く収まった。あとでこの民謡は29番まで歌詞があり、小槍の標高が一万尺だということを知った。(1尺約30.3cm)
小槍は2通りの登るルートがある。今回自分達が登ったルートと小槍山頂を挟んで反対面に位置する大槍側のコルから2Pで登るショートルート。こちらは山頂からの懸垂下降のラインと被っている。登ってくるパーティを待ってからの懸垂下降となった。

9:00、40m懸垂下降開始
丁度真ん中あたりにしっかりした懸垂支点あったので50mロープ1本でも2回に分ければ行けたのだと知った。

9:15、小槍と曾孫槍のコル
予定ではこのまま大槍まで抜けるつもりだったが、この先は曾孫槍・孫槍と越えて大槍へと続く懸垂含め5P程度の易しい登攀、既に各ピッチに先行者がいて間違いなく渋滞にはまる。落石も怖い。ここから2h以上かかってしまうと上高地最終バス17:30に間に合わなくなる可能性があるので、今回はコルから引き返すことにした。後ろ髪引かれる思いだったが一応目標の小槍は登り核心は越えたので良しとしよう。次回の宿題だ。

9:30、登山道
10:00-10:25、殺生ヒュッテ
連休最終日でテン場には自分たちのテントしか残っていなかった。
11:25、大曲
12:55-13:05、横尾山荘
徳沢のアイスクリームが旨そうだが我慢。
14:35-14:50、明神館(穂高神社の下見)
15:30、上高地BT

終わってみれば下山が早かったので西稜最後まで時間的に行けたかなぁという心残りはあったが、概ね順調に北鎌と小槍を登れて良かった。身体は筋肉疲労でバキバキだが心地よい充実感を得ることができた。パートナーに大変感謝だ。次は行程中ずっと見えていた硫黄尾根と前穂北尾根に、是非雪の時期に登りたい。