北アルプス 滝谷出合〜第4尾根
2016年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバー米田,松邨 記録(米田、松邨)
期間: 2016-09-24(土)〜09-26(月)

北アルプス穂高にある滝谷を新穂高の滝谷出合から雄滝、滑滝を越えてC沢に入り、第4尾根を登り、涸沢岳経由で穂高岳山荘のある白出コルから白出沢を下降し、新穂高に戻るという山行をしました。

コースタイム
9/24土
新穂高3:30発
滝谷避難小屋5:45着6:30スタート
雄滝6:40着上部10:30着
ナメリ滝12:30スタート
上部沢13:50終了
B沢分岐16:00
C沢途中ビバーク18:00

9/25日
5:30起き8:00発
8:40二俣着
9:00スノーコル登攀開始
11:00Aカンテ
11:20Bカンテ
12:30Cカンテ
14:30懸垂
16:40 第4尾根終了
17:00稜線着、17:20発
18:20穂高岳山荘着

9/26月
5:45起き7:20発
8:20荷継沢
9:45登山道合流
10:30新穂高下山

ギア
キャメロット1.2.3
エイリアン 赤 黄
ナッツ1セット
トライカム 小、中

20数年前、夏に北穂高から左俣を下り、第4尾根を登りましたが、クライマー的には、ちゃんと下から詰め上がりたかったのでした。(5月には出合から第4尾根を登っているのですが、雄滝、滑滝は埋まっていて、記憶に残ってもいない。)
今年(2016年)は台風など水量が多いということで、雄滝と滑滝を越せるのか心配でした。
雄滝は、右岸(向かって左)の小滝っぽいところから3ピッチ伸ばして、4ピッチ目を伸ばそうとしたところでトラバースの踏み跡を見つけトラバースして上部に抜けました。ブッシュ登攀を予想してピックのしっかりしたハンマーを持って来たのが役立つことになりました。
滑滝(ナメリ滝)は、左岸(向かって右)から越えていきました。プロテクションが少ないスラブを越えていくので、水量が多いとどうなるのか分からずに登り始め、一段、二段上がると、プロテクションがあまりない、しかし綺麗なスラブがありました。途中でナッツでプロテクションを取るが、その次にあったリングボルトは浅打ちの上にヘッドが曲がっていて、どれだけ信頼できるのか分かりません。そこから濡れているスタンスに立ち込み右のフェイス面に手を出すが、どこがラインか全く分からず、手と足を1つ1つ確認しながら、ランナウトしていき、50mほぼ目一杯伸ばしてこのピッチを終わらせました。結構メンタルを吸い取られました。他の記録では、それほど辛そうな記載がないので、水量でだいぶ印象が違うのか、私が弱いのか不明です。やはり雪が積もり雪崩れるところはリングボルトでも首が曲がってそのうちもがれてしまうようで、途中のリングボルトは、恐らく途中でピッチを切ったときに打たれたもので、もう1つ打った後が残っていたのですがもがれていました。
滝を越えて上部に出ると、雪はほんの少ししか残っていない。スラブの大岩から上がる沢がB沢で、大岩を右に回り込んで上がり、そこからC沢に入るのですが、詰めて行ったさきで、第4尾根の取付き点が分からず、沢の真ん中でビバークしました。落石の危険があるので、ヘルメットを被ったままの睡眠でした。前日から仮眠も取らなかったので、38時間行動となりました。
翌日は、大きく左に曲がりつつ詰めていき、第4尾根の取付き点のスノーコルを見つけました。
スノーコルまで来れば安心なので、第4尾根は、ツルベで登りました。
この日は第4尾根を終えてから涸沢岳を登り、白出コルまでの約16時間の行動となりました。第4尾根の岩はだいたい安定している感じで問題はありません。ただし、懸垂のところは、岩が崩壊しかけていてあまり気分よくはなかったです。
翌日は、台風被害の残る白出沢を下降して新穂高に戻り下山しました。
今回のパートナーである会の若手にとって、雄滝でのルートファインディング、滑滝のリスクのある登攀を経験して貰えたのは良かったと思います。(米田)

●9月24日
 前日夜10時半、仕事終わりで東京駅に集合。交代で運転して新穂高に着いたのは深夜3時過ぎ。手早く準備を済ませて、そのまま寝ずに蒲田川右俣沿いの登山道を歩いて、まずは滝谷出合を目指した。
<雄滝>
 午前6時前、滝谷出合小屋に到着。30分ほど休憩したが、腰を下ろすとぐっと眠くなってくる。そこでヘルメットを付けて滝谷に入った。自分にとって滝谷は初めてだったので、普段の水量がどれほどなのか分からないが、前日までの雨のせいで、やや多そうな印象を受ける。滝谷に入ると、すぐに雄滝が見えた。出合付近からでもなかなかの迫力で、それまでの眠気も覚めるほど。そこから10分ほどで雄滝下に到着。記録に出てくる両岸の側壁はしっかり濡れていて、やや不安になる。
 ここで登攀装備を整え、米田さんがリードで腐り気味のハーケンのある右岸側の壁に取り付いた。トラバース気味に右上して、滝のほうに近づく形でロープを伸ばしていく。滝の高さの半分の位置ほどで1P目を切る。スタンス、ホールドは豊富だが、滝のしぶきでアプローチシューズが濡れてしまった。
 2P目も米田さんがルートを捜しながらのリード。途中なぜか残置ハーケンはほとんど見られず、カムがメインになった。再び滝の落ち口方向に右上しつつ、上部の草付き帯の中の木でピッチを切る。途中スリングアブミで越えたりして、自分にとってはいきなりの渋い展開となったが、草も使ってなんとか這い上がる。ここまでで3P。そこからは懸垂支点の残置もあり、落ち口への明瞭な踏み跡が続いており、それを伝って雄滝は終了。いきなりアルパインクライミングの本質的な部分を見せられたようで、完全に眠気は吹き飛んでいた。
<滑滝>
 雄滝を越えた後も、全体が滝のような谷を詰めていくと、滑滝が出てくる。傾斜はそれほどでもないが、文字どおりのナメで、滑ったら止まらなそう。こちらはクライミングシューズを履いて左岸壁から取り付いた。こちらも米田さんがロープを伸ばしていったが、30分以上も時間を掛けてようやくピッチを切ることができた。
 ほぼ50mロープいっぱいで、滝の音でコールも聞こえづらく、わずかな声とロープを引く動作で合図が確認でき、自分もスタート。一段上がると、広いU字状のスラブの谷が広がっており、その側壁をトラバースしていくような形で落ち口を目指す。ハーケンが2本ほどあったがどれもグラグラで、1本は触っただけで抜けてしまった。カムが入るような箇所もほとんどない。谷底は薄暗く、それも相まって嫌な雰囲気。滑ったら、ロープで振られてもろに水流に当たってしまうので、フォローとはいえ緊張した。
「かなりランナウトして濡れた側壁を上がってきたから、結構しびれた」と話す米田さんだが、ここをリードするのは非常に神経を使ったことだろうと思った。その後すぐナメ続きで谷が狭まったところにもう一つ滝があり、それを越えてしばらくすると、ようやく景色が開ける。いくつかの記録では「出合からの4尾根はアプローチが核心」とあったが、納得。

 その後は右岸に合流するB沢に入ってすぐの支沢C沢に入る。ここで水が枯れたため、それぞれ2Lを満タンに。その後はどんどん沢を詰めるが、スノーコルへ上がる個所が出てこない。ここで夕暮れが迫り、適当な平場を見つけて、この日はビバーク。翌朝に再び偵察すると、ビバーク地よりさらに10分ほど上がったあたりに尾根への踏み跡が付いており、無事スノーコルへ上がれた。記録では「手前から尾根に上がってしまい、その後苦労を強いられた」とよくあったので、注意して詰めたつもりだったのだが、それでもまだコルへの踏み跡は上だった。

●9月25日、26日
<第4尾根〜稜線>
 いよいよ4尾根。「ここからはツルベでいこう」という米田さんの提案で、1Pは自分からスタートした。前日の滝に比べると、ルートも分かりやすく、快適に登れて楽しくなってくる。残置ハーケンもそれなりにあるが、各カンテ以外の岩は所々でもろく、神経を使う場所も多かった。
 Aカンテを過ぎたあたりから右前方にツルム正面壁を望みつつ、順調に高度を上げていく。ツルムのコルまで懸垂で1ピッチ下る個所があるが、この間だいたい3ピッチごとに県警(?)のヘリが自分たちの姿を確認するように飛んできた。操縦士の表情が見えるほど近くでホバリングしながらこちらの登りを観察しているので、なんとなく落ち着かない。
 そして最終ピッチ、ここは自分の番になった。ホールドの乏しいハング気味の抜け口で手間取ってしまったが、A0も交えて力技(?)で抜ける。自分としては苦労したのだが、フォローの米田さんは涼しい顔をしてあっさりと上がってきた。「右側のフェースにカチがあったよ」と言われたが、全く見落としていた(見てもホールドと認識できたのか……)。
 終了点に着いたのは午後4時半過ぎ。トポなどでは4〜5時間とあるが、いつの間にか7時間も掛かってしまっていた。自分の最終ピッチのほかは登攀自体にそれほど苦労した場所はなかったように思ったのだが、「各ピッチの切り替えでそれぞれ10分遅れたら、10ピッチで100分遅れることになる」という米田さんの言葉にハッとさせられる。自分では気付かない部分にも時間を短縮できる要素はたくさんありそうだった。
 うっすらとかかっていたガスが切れ、稜線から滝谷の出合が見えた。今回たどったルートの全貌が俯瞰できて、なかなか感慨が深い。その後奥穂高岳山荘に着いたのは午後6時半。その日は幕営地でツェルト泊。翌日は小雨の白出沢を下り、午前中には駐車場に到着した。(松邨)


雄滝。水量は多そう。右岸の弱点を突きながら滝を越えていく。


2ピッチ目


2ピッチ目から滝抜け口への弱点を探す。


滑滝(ナメリ滝)登れるのかなあ。


ランナウトに、抜けそうな残置ピトン、ナッツも決まりにくいスラブ。しかもしかも水量が多くて、神経をすり減らした。


滝を越えて上部へ。残雪はほんの少ししか残っていない。


真ん中のスラブの大岩から上がる沢がB沢で、そこからC沢に入る。


途中のビバーク地点。前日から仮眠もなかったので、38時間行動くらいになってとても眠かった。しかし、沢の真ん中なので、ヘルメットを被ったままの睡眠でした。


Aカンテ下のフェイスにロープを伸ばす。


Aカンテを望む。


Cカンテにロープを伸ばす。


終了点。右下に望むはスタートの滝谷出合