北アルプス剱岳周辺登山報告
2015年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
メンバーCl 小野寺斉(記録)、錦織良、平山陽子(写真提供)
ルート 黒4ダム〜内蔵助平〜ハシゴ段乗越〜二股〜池の平〜小窓〜三の窓〜池ノ谷乗越〜剱岳本峰〜早月尾根
日時 2015(平成27年)9月19日(土)〜22日(火)

1. 経緯
個人的な話になるが、ここ数年は夏にしても、冬にしても北アルプスの稜線からは遠ざかっていた。それが昨年暮れに会の冬合宿で燕岳西尾根を登り、途中で北鎌尾根を拝み、5月には赤谷尾根を登り、久しぶりに剱岳を拝んだ。8月には針の木雪渓を登り、蓮華岳〜船窪岳と縦走した。そんな折も重なり夏でもよいので久しぶりに剱岳に登ってみたくなった。錦織にこの計画の話をしたらすぐに乗ってきた。また、このシルバーウィークの期間中、新人の平山は一人で信州側から下の廊下に下る、というので一人よりはこちらの方がよい、ということで誘ったら、やはり乗ってきた。N大先輩にもこの話をしたが、残念ながら体調のこともありご遠慮された。そんなわけで齢(よわい)60も半ばのオジサン2名と1年生女子の凹凸トリオの山行となった。

 もともと剱岳北方稜線とは、白水社の日本登山体系によれば、僧ヶ岳〜毛勝三山〜赤谷山〜池の平〜小窓を経て剱岳に続く稜線である。今回はこの小窓を経て三の窓〜剱岳本峰〜早月尾根へと抜けた。勿論黒4ダムから入ったので「黒部の廊下」〜「剱の窓」を通ったことになる。実は正月に毛勝山、5月に赤谷山を登っており、これらの点を線にしたいという気持ちがないでもないが、自分はもう無理だろうし思う。もし会の若い人で興味があるなら是非繋いでほしいところだ。

2. 記録
2-1. 19日(土)
扇沢はかっては中央線松本経由が主であったが、昨今は新幹線長野駅からバスで入れる。
長い連休のせいか新幹線は満員であった。それでも予定通り扇沢に1030に到着、1100のトロリーでダムの上に降り立った。ダム発は1135で例の観光放水を見ながら川辺に降りる。天気はよい。橋を渡り水平歩道を行く。コバルトブルーに近い水の流れ、白い河岸、そして行く手には黒い岩壁、夏の香りを残しながらも木々の色は既に秋を漂わせている。途中作業員と思われる人に出会った。十字峡には雪が残っており通れない状態とか、釣り師と思しき人も歩いていた。内蔵助出会いに1300着、その後丸山東壁を仰ぎ見ながら急坂を登る、平山がキノコを発見、錦織が収穫する。この山行全体において感じたことだが、概して平山は目が良い。ガスの中の赤布、道はキチンと気付いていた。途中三田平から降りてきたという人に出会う、何とかバスに間に合わせたいとのこと。2ピッチも登ったであろうかやがて傾斜が緩くなり、そして平らになり、内蔵助平に1600着、テントを張る。早速入山祝いに入る。収穫したキノコも食膳を賑したことは言うまでもない。

2-2. 20日(日)
 起床は0430、食事後0600に出発。ゴーロ状の道を歩き、尾根に入る。0800にハシゴ段乗越に着く。今日も天気はよい。テントが1張、張ってあった。人の気配はない。剱沢に下る途中、剱岳の雄姿が見えた。前方右手には今夜宿泊予定の池の平が見える。その右は仙人ヒュッテだ。下から上がって来る人もいる。急な道を下り、河原に降り、吊り橋の前で一休みする。1000であった。誰もいないはずと思っていたら後から数パーティが来る。ストックを持った熟年の夫婦連れもいる。聞いたら剱沢小屋からという。どうも上部では左岸に渡れない箇所があり、一度右岸に来たとのこと。この吊橋もシーズン中のみ使用可とあるが、確かにロープをセットするために沢に埋めてある木の支柱もグラグラしている。
それから二股に下るが、途中県警のヘリコプターがすぐ上を通過して行った。下から見あげても乗組員の顔は分かる高度だ。何となく誰かを探している雰囲気であった。その後二股着1050、発1120で急坂を登り1350仙人峠着。さらに木道を経て池の平へトラバース気味に行く。1420着であった。
 早速池の平の小屋にテント代を払いに行く。1人600円とのこと。1パーティ1張の感覚なのかどうか? さて当然翌日の行先をノートに記入するが、北方稜線と書いたら、「経験はあるのか、雪渓は大丈夫か、2つもあるんだぞ、この小屋に前泊したお客さんが長次郎の頭で事故を起こし5針も縫った」など小屋番としては当たり前に注意しているつもりだろうが、その言い方にムッとしてしまった。マッ、そこはさらりと受け流して、「ロープもピッケル・アイゼンありますし、記録を見るとこの先の廃鉱の辺りが一番危険らしいですね、気を付けて行きます」と言って引き下がった。夕食まで間があるので、上部から下って来る数人に様子を聞いた。殆どは軽装であるし、聞いたら剣山荘に泊まり、この池の平の小屋に泊まるか、予約が取れなかったパーティは仙人へ行くか、どちらかであった。危険の度合いを聞いても無事に下って来たせいか、尾根にしても雪渓にしても問題ない、と言っていた。登り方も変わったものだ。珍しかったのは馬場島を0530に出て、白萩川を遡り中仙人谷から大窓を経由して着いた人がいたことだった。小屋に泊まっている人たちの知り合いらしく拍手で迎えられていた。我々の前にテントを張った学生パーティがいた。慶應医学部山岳部とのこと、阿曽原から来て、明日は三の窓泊と言っていた。さて、今夕も明日に備えての前祝となる。

2-3. 21日(月)
 いよいよ本日が最大の山場である。それほど難しくない、という人もいれば気をつけろ、という人もいる。夫々条件が違うし、誰もお互いのことを知って言っている訳ではない。ただ、自分たちとしては気を付けていく、それしかない。例により0430起床で0610出発、既に多くのパーティが我々よりも先に行っている。モリブデンを含有する輝水鉛鉱が発見された小黒部鉱山は廃鉱となっているが、その通路を辿って小窓雪渓に向かう。初めは何の変哲もない道であったが、途中から確かに険しくなっている。「ここは一般道ではない」という看板もある。特に雪渓に近づくに従って道の傾斜が左の谷寄りに下がっていて滑ったら一貫の終わりかも知れない。と思いつつ雪渓に降りる。0700過ぎであった。
ここでアイゼンを装着する。雪渓の傾斜はそんなに急ではない。我々の脇をスニーカーらしき軽そうな靴でアイゼンなしに抜いていった人がいた。今回に限って言えばピッケルも不要だったろう。雪渓自体は45分で終了、そのご草付を道まで登る。赤布が付いてている。右の池の平山の方にも続いていたが、その先は特に確認はしなかった。0800からやや荒れた、というか雪が解けてすぐ道を登り始める。小さなルンゼを抜けるとハイマツ帯の尾根に出た。彼方には後立山の稜線が見える。その先は踏み跡通り、赤布通り斜面を登る。周りから早々にガスが上がってきた。5mほどの雪渓では錦織はアイゼンなしで通過、小野寺、平山は一応アイゼンを付けて通過、雪には踏み跡がはっきり付いており難しくはない。その後ガスってきて赤布が見えなくなると、似たような踏み跡が沢山あるせいかあらぬ方向に行ってしまったりする。小窓王が迫ってくる。平山はパチパチよく写真を撮っている。体力にはまだ余裕があるようだ。1030小窓王基部着、そこから池ノ谷ガリーがよく見える。人が通るとザラザラ崩れる音がする。三の窓に下る「発射台」と呼ばれるバンドも崩れやすい、左の岩には残置ロープが垂れている。雪のある時に使用したものだろう。1100に三の窓発でガリーを登り始める。下って来る人が親切にも右岸ではなく左岸を通ると黒い土があって岩が崩れる箇所が少ないとアドバイスをくれる。乗越着が1200、周りはまだ少しガスっている。時々八つ峰に人が見える。
ここから岩稜帯に入る。取りつきは2級程度か。1210発、正面やや左のルンゼから入り、右のロープが垂れさがってフェイスに抜ける。ルンゼには大量の血の跡があった。後は岩稜帯を忠実に辿るが途中にテントが張ってあり、中に人がいた。こんなところには張ってほしくはない。その後長次郎の頭付近で名古屋の山岳会の人に会う。昨日はここで事故があったとのこと、これが小屋番の言っていたことか、と納得する。頭を回り込み、コルに下るが、ここで懸垂下降する。
その後、やや急な岩稜を登る。ガイド付きの人の中にはここでロープを使っていたようだった。すぐ傾斜が緩くなり、源次郎尾根側を回り込み剱岳頂上は1415であった。天候は悪くはないのだが、全体として遠くは見えない。この時間は昨日で言うと既にテント場に着いている時刻である。やれやれ後3時間も行動するのか、と気が重くなったが、取り直してすぐに出発する。早月尾根の下り口はすぐに見つかった。この尾根は実は雪のある時しか下ったことはない。えー、こんなに嫌な場所だったっけ、という感じ。まるで記憶がない。降りてすぐに真新しい太い鎖の連続であった。やや雨が降ってきたがすぐに止んだ。嫌な箇所を鎖が通っている。ガスっているせいか鎖が霞んで見えるだけで景色は見えない。しかし真下は落ちたらまっさかさまの谷ということはすぐわかる。場所によっては北方稜線よりこちらの方に緊張感があった。が、ここも1ピッチを過ぎると後は記憶にある痩せ尾根となる。視界が開けてきた。何ピッチか歩く、人の笑い声が聞こえ、小屋はもうすぐか、と思うがなかなか着かない。結局1730に小屋着、テント代は1人500円、水は2リッターペットボトルで900円であった。本日は11時間半の行動時間であった。前回の集会で途中からでも連絡を入れておいた方が良い、ということだったので平山の携帯電話(ドコモ)を借りて牛山に連絡した。その晩は少しゆっくりしてからの就寝となった。

2-4. 22日(火)
 いつもより一時間遅い0530に起床、0700に出発する。天気も良いし、危険地帯もあまりない。何と言っても周りの山々がよく見えたことが収穫であった。そんな中にも軽装の登りの人はかなり多い。自分のことは棚に上げてこんな急な尾根の往復ご苦労様だな、と思ったりもする。赤谷山へのすっきりしたきれいな尾根が見える、大窓が見える、毛勝三山も見える。急坂、松尾平を下り1130に馬場島に着く。途中、ヘリコプターが飛んでいる音が聞こえた。天気の良い昼に着いたせいか、車が多く駐車している割に山荘の前は三々五々と言った感じで静かだった。
山荘で風呂に入りタクシーで富山へ。うまい寿司を食べ、新幹線で座って帰京した。

以上


いざ、出発                キノコを狩る 錦織

ハシゴ段乗越の下りから剱岳・池の平 

二股出会い                   二股  平山と小窓、三の窓、

池の平の朝                 池の平から剱岳方面

                  朝の出発

廃鉱あとの道                   小窓雪渓

雪渓の後の小窓への詰め           5mの雪渓を渡る錦織

小窓基部の平山、後ろは池ノ谷ガリー      発射台を下る小野寺

池ノ谷ガリーにて、バックは剱岳への岩稜の始まり

岩稜を行く                 長次郎のコルへの懸垂下降

                剱岳頂上

              早月尾根下降

夕映えの早月             小屋前ではしゃぐ平山

出発の朝               摘む錦織

赤谷尾根と奥に毛勝三山           馬場島で乾杯