剱岳―チンネ&下の廊下
1998年度山行報告 (C) 昭和山岳会(東京都山岳連盟)
1998年9月1日〜8日
猪熊、田中、池田(中大3年)

<9月1日(火)曇りのち雨>
13:35 室堂発
14:22 雷鳥坂2600m地点(〜14:53)
15:25 剱沢
連日の東・北日本の大雨で上越線が不通になり、急行“能登”が運休したため、田中は急行“アルプス”、糸魚川経由で来てくれた。そのため、今日の山ノ窓域は止めることとし、剱沢までとすることにした。今年の剱はこれで3週連続3度目。正直疲れていて気が重いが、やっと仕事から解放されて自分の登山が出来るのが嬉しい。雷鳥坂までのんびり下り、その後ぶっとばして2600mへ。本当は別山乗越まで1時間で行きたかったが最初のスローペースと自分の体力不足で無理だった。そこでここで後の二人を待つことにした。その後あっという間に剱沢に着いてしまい、なんともあっけなかった。でも初日はこんなもんでしょう。夜は雨が降り出したが、明日は何としても三ノ窓へ入りたいものだ。でも雨の中歩くのも嫌だしなぁ。

<9月2日(水) 晴れのち雨>
7:20 剱沢発
7:40 剱山荘(〜7:45)
8:05 武蔵のコル(〜8:15)
9:00 平蔵のコル手前(〜9:20)
9:50 剱岳山頂(〜10:40)
12:40 池の谷乗越(〜12:45)
13:30 三ノ窓
今朝は久しぶりに青空が広がり、剱岳も鮮やかに浮かび上がった。意気揚々と準備をし、7時20分にのんびり出発。万が一水がない場合に備えて剣山荘で水を汲み(計;5.5リットル)いよいよ登りに入る。一服剱、前剱と快調に飛ばして平蔵の手前で一本。田中は相変わらずマイペースでなかなか来ない。カニのタテバイはスムーズにいったが、最後の登りは少しきつかった。それでも剱の山頂ではお日様も照って時々八ッ峰、源次郎、室堂、小窓尾根、毛勝山々などが望めて素晴らしかった。剱からはガラ場の急な下りとなり長次郎のコルに降り立つ。そこから以前は左にルートがあったような気がしたが、左は恐怖のガラ場トラバースでいただけなかった。田中が右に巻く道を発見し、そっちに戻ってトラバースするが、残置シュリンゲのある所までわかりずらかった。そこから先は踏み跡は明瞭で、一か所いやらしいトラバースがある他問題ない。池の谷乗越への急なクライムダウンは荷物が重いので懸垂にしようとしたが、池田のザイルの投げ方がまずく、引っ掛かってしまい、結局回収してクライムダウンで降りた。池の谷ガリーは以前来た時よりも悪く感じたが、靴のせいだろうか。右側が開けてくると、三ノ窓に到着。幸い、古い缶に水がいっぱい溜まっていて水の心配は無用だった。それでも雪渓は少ししか残っていないのでどうしてもガラ場を横断しなくてはならない。岩は午後からの雨ですっかり濡れてしまった。この天気、どーにかしてくれー。

<9月3日(木) 雨のち晴れ>
9:30 三ノ窓
10:30 左稜線登攀開始
11:20 1ピッチ目終了
14:40 T5
16:40 核心部ピッチ終了
17:30 チンネの頭
18:30 三ノ窓
今朝は天気予報とは裏腹に雨が降ったりやんだりの天気。8時頃出発の準備を始めた途端また雨。今日はダメかなと諦めかけた頃9時前に晴れ始める。どうしようかと迷ったが、天気が不安定なので、短い中央ルンゼに気の乗らない田中を置いて、池田と二人で出発する。雪渓をトラバースし、中央ルンゼを見るが、あまり登る気がせず、左側の素晴らしいスカイラインに目がいってしまう。明日、あさっても晴れるかわからないし、時間が遅くても三ノ窓ベースだったら何とかなるだろうと思って、左稜線にルートを変更する。いやらしいガレ場を登り下ってバンドに出る。バンドの左端がテラスになっており、そこが左稜線1ピッチ終了点となっていた。IV級の凹角は傾斜が強く、久し振りの本ちゃんで緊張する。池田も初めての本ちゃんということで時間がかかりまくってしまった。あー、この分だとまたビバークだなと少し憂鬱になるが、その後はピッチを重ねるごとにペースもあがり、面白いピナクル群を越えてT5へ。核心部は池田の順番になってしまう。しかし、見た感じそれほど難しくなくピンも豊富なので試しに登ってみろと言う。ランニングを取りまくって時間はかけていたが、何とかA0で小ハングをのっこした。自分はセカンドで気分的に楽だったがA0を使ってしまった。その後も爽快なリッジクライミングでチンネの頭へ何とか暗くなる前に辿り着けた。頭からはクライムダウンで三ノ窓の頭とのコルに下れるので楽だ。そこから池の谷ガリーへの下りも落石に気をつければ問題なく下れる。三ノ窓で無事登攀終了を祝った。夜はマーボー春雨が旨かった。

<9月4日(金) ガス時々晴れ>
8:00 三ノ窓発
9:00 中央チムニー登攀開始
11:00 中央チムニー終了点(第一バンド)
11:30 上部取付
13:10 チンネの頭
13:40 三ノ窓
今日は昨日の登攀の疲れが残っていたので気が重かったが、明日には剱沢に下りなければならないので行くことにした。天気はガスで肌寒く、あまり気持ちのよい天気ではない。田中は出発前に左稜線の取付まで昨日池田が残置したものを取りに行ってくれた。雪渓をトラバースし、ガラ場を直上するが、これが良くない。ひやひやものだった。途中からは簡単な岩場となり多少気が楽になった。しかし、自分は中央チムニーの取付を過ぎてしまい6〜7m程登ってしまった。田中には下で待つように言ったが、登って来てしまったので俺は田中を怒鳴ってしまった。それで田中がリードすることになったが不服そうだった。1ピッチ目はチムニー自体よりも右壁のフェースクライミングといった感じだ。2ピッチ目は多少岩もも脆くなり、あまり気持ちのいいクライミングではなかった。3ピッチ目は短く簡単なルートで自分がトップに変わった。第一バンド上がり、a,bクラックの一段下から再びアンザイレンする。最初は一番やさしいa, bクラックに行く予定だったが、自分がトラバースせずに直上してしまったので、gチムニーに入る。それでもそんなに難しくなかったが、某T君はセカンドなのに手こずっていた。その後、c、dクラックに入り3ピッチでチンネの頭へ。三ノ窓へんも昼過ぎに着き今日は楽な登攀だった。夕方は見事な夕景を見せてくれ、池の谷の幻想的な光景と小窓王南壁真っ赤に染まる様に言葉が出なかった。夜も富山平野の夜景が見事だった。素晴らしいこの三ノ窓を明日去るのは本当にもったいない気がした。

<9月5日(土) 晴れのち曇り>
7:55 三ノ窓発
8:25 池の谷乗越上のピーク(〜8:55)
9:44 剱岳山頂(〜10:30)
11:14 一服剱
12:00 剱沢B.C
素晴らしい景色を見せてくれた三ノ窓にお礼を言って去る。池の谷ガリーを登り、その先の岩稜を登ってピークで一本とる。よく晴れて素晴らしい眺めだ。剱山頂の登山客がアリの様に見える。立山、笠、黒部五郎、毛勝三山、剱尾根、小窓尾根、八ツ峰などが見事だ。いやらしいトラバースの後、しばらくで長次郎の頭を巻くが、ここを帰りも間違ってしまい、今度は下に降り過ぎてしまった。いやーなクライムダウンだった。長次郎のコルから急な登りでニセピークへ。そこからひと登りで登山客で賑わう剱の山頂へ。少し雲が出てきたがまずまずの展望。頂上からはひたすら下り、いいペースで剱沢に着いた。剱沢の小屋でカレーか牛丼を食おうと思っていたが、なんと売店しかなくて仕方なくミソパンを買った。自分は池田と二人で一袋を買ったが、田中は一人で買って喜んでいた。しかし、その欲張りがたたったのか、その夜は下痢になっていた。ホーホッホッホッホ。

<9月6日(日)曇り>
8:00 剱沢発
9:25 真砂沢(〜10:00)
10:35 ハシゴ谷乗越(〜11:15)
12:00 内蔵助平
12:35 1700m地点
今朝は朝からガスっていて初雪でも降りそうな寒い朝だった。のんびり出発の準備をする。剱沢からの道は雪渓がないので歩きにくく右岸の高巻き道だったが、一部スラブの登り下りがありFIXが張られているところもあった。また、平蔵の出合いと長次郎の出合いで雪渓を渡らなければならず、ジョギングシューズの自分は緊張した。あまり一般ルートとはいえないようだ。真砂沢にはそのため1時間30分近くもかかってしまった。長次郎も平蔵もやはりズタズタでとても入ることはできなさそうだった。真砂沢も去年の夏合宿の時とは別の場所の様に静まり返りテントは一張りもなかった。小屋の人と少し話をして、あのハシゴ谷乗越へ。猛烈ダッシュでハシゴ谷乗越に着いた。鼻水とよだれがたれ放題で凄い顔をしていたと思う。今山行はじめて疲れたと感じた。ハシゴ谷乗越では赤や紫の実が実っており、田中に「食えるよ」と言ったら本当に食っていた。また、下痢しなきゃいいけど。下りはあのかったるい巨岩歩きで嫌気がさした。テントは最初、橋を渡ってすぐの所に張ろうと思ったが、他の人にもう占拠されていたので、もう少し行った二つの沢の間に張った。しかし、草の刈り取りをしている人が来てここは幕営禁止だよと言われてしまったが無視した。相変わらず虫が多く、池田は刺されまくっていた。

<9月7日(月) 曇り一時晴れ>
7:10 1700m地点
7:40 1450mの沢(〜7:55)
8:35 内蔵助之沢出会い(〜10:18)
10:08 別山谷出合(〜10:18)
11:15 白竜峡〜十字峡の沢(〜11:25)
11:40 十字峡(〜11:55)
12:55 東谷吊橋(〜13:05)
13:17 仙人ダム
14:40 阿曽原
今日は曇っていたがなんとかもちそうだったので、下の廊下に行くことにする。しかし、河原に下りるところを間違えてしまい、後の二人とはぐれてしまった挙げ句に凄い藪こぎを強いられた。やられたー。そのせいで池田、田中の二人は先に行ってしまい、その二人は私が先に行ってしまったと思い込んで先を急ぎ、それを私が追い掛けるという変な構図が出来上がってしまった。そのうえ、やっとの思いで辿り着いた内蔵之助沢出合から見た黒部川今年の大雨のせいで泥色だった。田中はすぐに捕まったが、池田は別山谷出合で待っているだろうと思い、二人で行動することにした。しかし、結局、彼は休まずに歩き続けたらしく阿曽原まで捕まらなかった。ごめんなー。白竜峡はやはり泥水でも素晴らしかった。十字峡も素晴らしかったが、これをどうやって徒渉しようというのか。恐ろしいことだ。剱沢の水は深い青で美しかった。そこから水平道をひたすら歩きいい加減あきた頃、黒四発電所の入口が見え、それに励まされてさらに歩くと下り坂になる。これを下りきると、吊橋が現われ対岸に渡る。階段があり、足が重い身にはこたえる。トンネルを抜けると仙人ダムに到着。ここで田中を待つが、なんと足を捻挫したと言う事だった。ここからら関西電力の建物の中を通過し、しばらく行くと上り坂になる。登り切るとトラバース道となり仙人小屋からの道が合流すると下り坂になるが、田中は捻挫のせいで苦しそうだった。しばらく下ると阿曽原小屋に到着。池田はもうすでに到着していた。小屋には堀内さんの知り合いの富山大学OBがおり、挨拶した。落ち着いた後、しばらく下った所にある阿曽原温泉に行ったが、いい湯であった。

<9月8日(火)晴れ>
7:25 阿曽原発
8:35 オリオ谷(〜8:50)
11:25 けやき平
今日も素晴らしい天気だった。水平道は所々回り道となっていて登り下りが面倒だった。途中のオリオ谷の滝は素晴らしかった。次の志合谷のトンネルは不気味だった。ここから先の対岸に奥鐘山の大岩壁が見えてそのハング帯の連続する岸壁帯にこんなのを登る人もいるのかと溜め息をつくばかりであった。さて、ひたすら水平道を進み、途中マムシが現れたりもしたがやがてけやき平への下山口となり、ひたすら下るとようやく平駅に到着した。田中は待ちに待ったトロッコ電車にはしゃいでいた。おわり。(記:猪熊)